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フェムテックの会社を退職しました

8月末をもって、約2年半勤めたフェムテックの会社を退職しました。
会社の事業戦略の変更・組織縮小のため、メンバー全員が散り散りになり、別の道を歩むことになります。

これまでの社会人経験や大学院での学びを経て、フェムテック(女性の健康課題をテクノロジーで解決する)という分野で女性をエンパワーできる仕事をしたいと思い、突き進んでまいりました。
が、道半ばという状態でこのような結果となったことはすごく悔しく悲しい気持ちでいっぱいですし、急なことで混乱させてしまったクライアントの方々や、実際にプロダクトを購入したり、イベントに足を運んだりと、我々の発信に関心を持ってくださっていた方々にも申し訳ない気持ちと感謝の気持ちがごちゃ混ぜになっています。

この約1,2ヶ月の期間はとても苦しく、組織というもの・人間というものを、もういいよと思うほど学びましたし、ストレスでぱんっぱんになりましたが、その分本当に強くなれたと思います。鎧のような強さではなく、もっと深くてやわらかい強さです。


私が初めて、いわゆる「フェムテック」と呼ばれる商材を知ったのは2020年頃だったと思います。ナプキンやタンポンを使わなくても水分を吸水してくれる「吸水ショーツ」というものでした。

当時は(というか今もですが)生理の時に使うものといえばナプキンかタンポンが主流。
あまりに奇想天外というか、斜め上すぎる商品に「いやいや、そんなことあるかいな!」と思いながらも、新しい物好きで試してみることが大好きな私はすぐに飛びついて自分で使ってみました。
もちろん良いところも使い勝手の悪いところもあり一長一短でしたが、生理といえば、という「当たり前」が覆される経験をし、選択肢として存在することに意義を感じたのを覚えています。単純に、「みてみて、こんな面白いものが世の中にはあるらしいよ!」という、無邪気な気持ちも大きかったかもしれません。

それから色々なご縁が重なって、実際に会社のメンバーとして関わるようになり、たっくさんのフェムテック・フェムケアと呼ばれる商品を見て・試して・紹介して・売って・企業様と一緒に開発をして、、、と繰り返してきました。

そんな中、いつも私の脳内にひっかかってとれないものがありました。

「フェムテックって、高いなー」ということと、「これ、誰のためのものなのだろう」ということです。

吸水ショーツ5000円、ピルの飲み忘れ防止アイテム7000円、膣トレグッズ一万円、電動搾乳サポートブラ2万円。
どう考えても、私の感覚で、それらはとっても高価なものでした。これまで「ないと思って生きてきたもの」にその金額をポンと出せる人は、既によほど健康に対してアンテナを張り投資してきた人たちです。

2年半の間に、多くの女性誌がフェムテック特集を組むようになり、テレビでも報道され、イベントも増え、明らかにその注目度が高まっているのを感じていました。
けれど、実際にフェムテック商品が手元に届いているのは、自由に新しいものを試すことができるほど金銭的に余裕があり、それらの情報に日常的にアクセスできる環境があり、「健康」というものに気を配る余裕があり、店舗やイベントに足を運ぶことができるくらいには都心に住んでいる人….
すなわち、ほんの一握りの、すごく嫌な言い方をすれば「意識が高い」「リテラシーが高い」と言われるような、「選ばれた」数%の人たちだったのだと思います。私は、肌で、そう感じてきました。

でも、健康に関する悩みって、お金を持っているかどうか、情報収集能力に長けているかどうかで変化するものではないじゃないですか。

生理の時にナプキンを変えるのが面倒くさいのも
つわりがしんどいのも
出産後に骨盤がずれて痛みを覚えるのも
尿漏れに困ってしまうのも
更年期に体調を崩しうつ状態になってしまうのも
骨粗鬆症で転んだだけで骨折してしまうのも
誰だって持ちうる悩みなのに、「選ばれた」人だけがその解決策を知り、高いお金を払って解決策を手に入れていく。

フェムテックが流行れば流行るほど、その格差をまざまざと見せつけられ、「フェムテックって誰のためにあるのだろうか」と頭に霧がかかったようにわからなくなっていきました。

いずれそれらにも価格競争が生まれ、地方に住んでいようと給料が特別高くなかろうと、情報を得て簡単に手に取れる未来がくる。
そう思っていましたが、少なくともこの2年半の間、その傾向を感じ取れなかった、そこまでに至る方法を見いだせなかったというのが私の感覚です。
ボリュームが増えなければ価格を抑えることは難しく、とはいえ地方へのネットワークや資金力を持っている大手企業にとっても「金になるかならないか」という決裁の大きな壁が立ちはだかります。どんなに一生懸命開発しても、売れなければそれで終わり、です。

もちろん、高所得者だけが手にいれることができる選択肢があっても良いと思います。高級な美顔器とか、ハイブランドのバッグとか。
でも、フェムテックに関しては、私はそれでいいとはどうしても思えなかった。
健康という、誰しもの人生のベースとなる大切なものに「格差」が生まれるのが、どうしても納得いきませんでした。

「格差」というのは、自己責任では片付けられないと、私は思います。
個人のせいにするのも、仕方ないと終わらせることも簡単だけれど、個人が抱えている問題は必ず社会と複雑に繋がっていて、その背景にはもっと大きく深い問題がある。あなたの問題は、私の問題でもある。大学院で社会科学を学んでから、そういう世界の見方をするようになりました。
私が都内で一人暮らしをしていて、明日のご飯に困っておらず、生理のときに吸水ショーツを選んで履けることは、私が努力したからではなく、私の能力が高かったからでもなく、運良くたまたまそういう恵まれた環境にいたから、なんです。

長々と書いてしまいましたが、私が望んでいる世界は、できる限り格差のない状態で、本当に必要なひとが必要なタイミングで情報に触れ、手助けとなるような商品やサービスを使うことができる世界です。これを、これまでタブー視されてきた、そして「どうしようもないこと」として捉えられてきた女性の健康課題という分野で実現させるには、途方も無い時間がかかるのだと思います。

散々ネガティブなことを書いてしまった気がしますが、フェムテックという分野に未来がないとは全く思いません。
というか、フェムテックはツールでしかないので、もしかしたらもっと別の良い方法があるのかもしれないし、大事なのは「絶対に何がなんでもフェムテックの商品の数を増やすこと」ではなく「女性が我慢するしかなかった健康課題を解決できる世界を作ること」なので、アプローチの仕方がいくつあっても良いと思うんです。もちろんフェムテックもそのアプローチ方法のひとつです。

先進的な事例が多いからといって、必ずしも海外のやり方や商品を踏襲する必要もありません。この国にはせっかくの充実した皆保険制度があり、長寿の国なのだから、できることは山ほどあるはず。打てる手は、まだまだあると感じます。そういう意味で、道半ばだという悔しさがあるのです。

この2年半、たくさんの出会いがありました。フェムテック事業に携わる企業の方々は本当に熱意をもって取り組む素敵な方ばかりで、本気で向き合って一緒にお仕事をしていただけたことに心からの感謝の気持ちでいっぱいです。宝物を受け取ってばかりでした。この縁は必ずどこかでまた繋がっていくのだと確信していますし、そのときに恥ずかしくない自分でいられるように精進していきます。

今後についてですが、しばらくは特定の組織に属することはせずにフリーランスとしてお仕事をお受けしていく予定です。(9月は少しバタバタしており、10月以降の本格稼働となりそうです)

女性の健康課題や、広くウーマンエンパワメントに関してもこれまで以上に自由に発信できるようになりますし、女性という括りだけでなく興味関心は様々あります。
まだまだ私の仕事人生はこれからですので、自分のペースで模索していきます。
既にワクワクすることがたくさんあり、楽しみです!!


はーーーーーー、たっくさん泣きました!!!!!!!!
ここで一区切り。また、新しい私です。感謝の気持ちを込めて。
みなさんの健康を、心から祈っています。
これからも見守ってくださると嬉しいです。

Sae

いただいたサポートは、私のテーマでもある「マイノリティ」について考える・発信するために必要な書籍購入費に使います。必ず社会に還元します。