佐田おさだ

趣味で自作の小説を書いています。 気が向いたら読んでみていただけると嬉しいです。 小説本編は全て無料で読めます。

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  • 【長編小説】走馬灯で会う日まで

    連載形式で、長編小説を書きます。 ファンタジー小説です。 更新は不定期ですが、なるべくがんばります。 感想などコメントいただけると嬉しいです。

  • 【短編小説】本編は全て無料です。

    本編は全て無料でみれる短編小説を投稿していきます。 作品解説を有料としています。ご興味があれば買ってみてください。

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【長編小説】走馬灯で会う日まで #1

休憩から戻ると店内は相変わらずにぎやかだった。 さも喫茶店らしくコーヒーの匂いが充満していて、吐き気がした。客の話し声がガヤガヤと耳に障る。まるで、小さな虫が耳の周りを周回しているような気分だ。 時計を見る。十時ちょうど。あと六時間は、仕事をしなくてはいけない。それですんなり帰れたらいいが、どうせ残業する羽目になるだろう。今日だけで、あとどれだけの数のコーヒーを入れなくてはいけないのか。どれだけの数の作り笑顔をしなくてはいけないのか。考えるだけで気が遠くなりそうだった。 床に

    • 【長編小説】走馬灯で会う日まで #21

       宮本さんは、本部へ連絡入れた後にすぐにお店を出ていった。対応については本部で検討するとのことだった。また、他の職人には、あまり伝えないで欲しいと釘を刺された。  今後の事もあるので、飯田さんには伝えたいと話し、そこだけは了解をもらった。  飯田さんには、すぐに話をした。飯田さんは、驚くというよりも、悲しそうな表情をした。  それから、店長にも報告をしなければいけなかったので何度か電話をしたが、繋がらず、結局、折り返しかかってきたところを飯田さんが出て、説明をしてくれた

      • 【長編小説】走馬灯で会う日まで #20

         本部へ事情を説明した後に、銀行へ走り、お釣り用のお金を用意した。  店長へも連絡をしたが、電話はつながらなかった。  午前中は、忙しかったが何とかこなした。学生バイトの二人も一生懸命に働いてくれて、かなり助かった。何より、飯田さんがいつもの倍以上にきびきびした動きで働いてくれたおかげで、あんなごたごたがあったにも関わらず、その他の問題はなく、お店を回すことができた。  十二時頃に、本部の社員が到着した。  初めて会う人だった。 「はじめまして、宮本です」  そう

        • 【長編小説】走馬灯で会う日まで #19

           橋本さんとの食事を終え、家に着いたのは十時頃だった。  今日は久々にゆっくり眠れると思った。  シャワーを浴びたあと、冷蔵庫からビールを取り出した。一気に半分程飲むと、ソファに座った。疲労感が全身にまとわりついていて、今にも眠ってしまいそうになった。  テレビをつけてみるが、興味を聞かれるようなものはなく、すぐに消した。疲れ過ぎているせいか、何もする気力が起きず、ただ、ゆっくりビールを啜った。そして、ゆっくりとビールを啜りながら、橋本さんについて考えてみた。  橋本

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        【長編小説】走馬灯で会う日まで #1

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        • 【長編小説】走馬灯で会う日まで
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          2本

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          【長編小説】走馬灯で会う日まで #18

           仕事が終わり車に乗り込むと、時刻は夕方の六時だった。今日は仕事がスムーズに進み、残業をしなくて済んだ。  橋本さんとの、約束までは少し時間の余裕があり、僕は途中コンビニに立ち寄り、コーヒーとマンガ雑誌を買った。車の中で、マンガ雑誌をめくりながらコーヒーを飲んだ。  ゆっくりと息をつくと、疲れが抜けていくような感覚があった。ひさびさにリラックスできる時間だった。  この時間は一時間にも満たない時間だったが、まるで久々に息継ぎをしたような気分になった。よく考えれば、ここ最

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #18

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #17

           仮面の男が部屋を出ていった後、僕は、椅子に座り茫然としていた。  頭の中がぐちゃぐちゃで、なかなか整理がつかなかった。自分の身にいったい何が起きているのか、理解ができない。 それから、僕は、ふと思い出したように時計を見た。  七時十五分になろうとしていた。  仕事へ行かなくては、と思った。まずシャワーを浴びようと立ち上がった時、立ちくらみがした。頭の血が下に下がっていくような感覚。視界がぼやけ、自分が立っているのかさえ分からなくなった。しかし、立ちくらみはすぐに収ま

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #17

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #16

          「あなたは、自分を押し殺すために、知らぬ間に仮面をつけていたのです」  仮面の男は、話をしながら、大きな銀色のアタッシュケースをテーブルの上に置いた。 「そして、自分では気づかないうちにどんどんと追い込まれていった。そういう人は、割と多いです。西田さんのように、追い込まれていることに気がつくことができない。どんなに辛くても、心のどこかで『大丈夫』と思っている。後は、きっかけだけなんです。それも、大きなきっかけでなくてもいい。ちょっとしたきっかけで、限界に達し、パチンと糸が

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #16

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #15

           目が覚めると、僕はベッドの中だった。  上体を起こしあたりを確認する。特に変わった様子はない。どうやら、着替えもせずに眠ってしまったみたいで、ジーンズにワイシャツという恰好だった。  疲れているのかもしれない、と思った。  きっと仮面の男は夢だったのだ。  あんなヘンテコな夢を見るなんて、相当まいっているのかもしれない。  徐々に覚醒していく中で、窓がやさしく光っていることに気がついた。夜が明けてきているみたいだ。僕は、慌てて時間を確認しようと、ベッドから出ようと

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #15

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #14

          「ごめん。怖かったよね?」  助手席にぐったりした様子で座っている橋本さんが言った。  結局、衰弱しきっている橋本さんを一人で帰らすわけにもいかず、送っていくことにした。 「いえ……大丈夫です」 「ほんとにごめん……ごめんなさい」  橋本さんは、しきりに謝罪の言葉を繰り返した。そこには、僕にというよりは、自分に、あるいは世間に、もしくは自分を見ている誰かに向けて言っているようでもあった。 「大丈夫ですから、気にしないでください」  ちらりと橋本さんを見ると、殴ら

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #14

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #13

           《サンズ・カフェ》に着いてみると、まだ店内の明かりがついてた。  時刻は、十時二十分で閉店から二十分経っている。自分以外で、こんな時間まで残業する人がいるのは珍しいな、と思った。  もしかすると、僕が早退した後にトラブルでもあったのかもしれない。  車から出ると、外は想像以上に寒く、秋になったばかりだというのに、まるで真冬のような冷たい風が吹いていた。それに、これから雨でも降るのか、湿気をたっぷりと含んだ空気が体にまとわりついてきた。  僕は、お店の裏口に回り、職員

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #13

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #12

           病院に母の着替えなどを届けた後、近くのファミリーレストランで、食事をすることにした。  手続きや着替えを取りに行ったりしただけで、なんだかんだ既に日が暮れる時刻になっていた。仕事に戻ろうかと一瞬考えたが、明日もどうせ仕事なのだから、休ませてもらうことにした。念のため、飯田さんには、ラインで連絡を入れた。するとすぐに、「当たり前じゃん。疲れただろうから、今日はゆっくりしなよ」と返ってきた。  僕は、ファミリーレストランで、パスタとチキンのサラダを食べながら、この後何をしよ

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #12

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #11

           病院に着くと、入院の手続きなどのうんぬんかんぬんで、終わらないのではないかと思うくらいに長々と話をされた。  そして何枚もの書類にサインし、印鑑を押した。  すべての手続きを終えて、病室へ行くと、母がベッドの上で週刊誌をパラパラめくっていた。左手にはギプスをしているので、右手だけを使い、ぎこちない手つきだった。 母親は、六十五歳になったばかりだったが、見た目は、それよりも老けて見えた。手には深いシワが無数にあり、髪の毛の半分以上が白くなっていた。下手をすると八十歳以上

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #11

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #10

           どんなにおかしなものを見たとしても、日が昇れば朝になった。  僕は、いつものように起きて、歯を磨いてからコーヒーを入れた。昨日、ベッドに入った時には深夜の三時になろうとしていた。  数えると三時間か四時間くらいしか寝ていない。そのせいか寝不足感があり体が重たかったが、憂鬱さはいつもより幾分マシだった。  昨日の興奮がまだ体に残っているのかもしれない。  僕は、コーヒーを飲み干して、着替えを済ますと、車に乗り込んだ。  今になってみると、昨日の仮面の男たちについては

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #10

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #9

           お店を出ると、橋本さんとは駅前で別れた。  僕は、家に向かいながら、どうもこのまま家に帰りたくないような気持ちになっていた。さっき、橋本さんと話したことが尾を引いているのだろう。  飲み会自体は、楽しく終わった。それでも、どこかしこりが残っているような感じがした。もちろん、飲み足りないわけではない。いや、もしかすると飲み足りないだけなのかもしれない、とも思った。  家に帰る前に、どこか寄りたい気分ではあったが、どこに行くべきなのかがまったく分からず、一応、自動販売機でコーヒ

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #9

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #8

           朝、起きると頭がズキズキ痛んだ。  まるで頭の内側を工事されているみたいだった。  僕は、ベッドから起き上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んだ。少し頭の痛みが和らいだような気がする。でもアルコールによる頭痛がやっかいなのは良く知っている。水を飲んだだけで消えてくれるわけがない。案の定、数分したらまた痛みは戻ってきた。  時計をみる。時間は、六時四十分だった。  僕はゆっくりとした動作で、仕事の支度に取り掛かる。まず歯を磨いて、顔を洗う。それから、電

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #8

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #7

           仕事を終えて車に乗り込んだ。シートに埋まってしまうのではないかと思うくらいに、体が重たかった。  エンジンをかけるがすぐに発車する気にならない。静かな駐車場でアイドリングしている音が響いていた。それからカーラジオをつけた。   ――この前、電車に乗っていてね。満席だったんですよ。    何の番組かはわからない。ずいぶん声の低い男性が話をしていた。    ――目の前に、おばあちゃんが立っていて、僕、席を譲ろうとしたんですよね。そしたら、『大丈夫です』って、断られ

          【長編小説】走馬灯で会う日まで #7