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矛盾だらけの社会を嘆くよりマシな方法

最近どうもTwitterから遠ざかり気味なのは、イーロン・マスクが「そっちじゃないだろ!」とツッコみたくなるTwitter改善をすることにうんざりしているだけじゃなくて、あまりに違う価値観と考え方が飛び交い、日々炎上とプチぼやが繰り返されていて、「人は分かり合えない」と絶望してしまっているからかもしれません。

でもせっかく「声を上げる」手段を手に入れた私たちが、束の間感じた希望を、みすみす手放してしまっていいのか。「世界はどんどん分断されている」と嘆くだけでいいんだろうか……と思っていたところ、参加することになったのが今回の企画。3月1日に出版された『パラドックス思考』でした。

『パラドックス思考 ─ 矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』は、立教大学経営学部 准教授の舘野泰一さんと株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOの安斎勇樹さんの共著。私は編集協力としておふたりの執筆をサポートさせてもらいました。既におふたりのnoteが公開されているので、内容についてはそちらを参照いただきつつ、

今回のプロジェクト自体は私にとってもはじめてだらけのことだったので、そのプロセスを少し振り返ってみたいと思います。

おふたりの初となる共著

プロジェクトが始動したのは2021年秋。その時点では「舘野さんと安斎さんの共著にする」「テーマはプレイフル」「ここからミーティングを重ねて、核となるテーマを決める」みたいなことが決まっているくらいで、あとは白紙。私は壁打ち役として併走することになりました。

とはいえ舘野さんと安斎さんは15年来の盟友かつ気鋭の研究者。共通言語も知識も経験も豊富で、打てば響く言葉の応酬。私はただ相槌しながら出てくる研究者名や用語を検索して、参考文献をAmazonでポチって読む……みたいなことをひたすら繰り返していました。"壁打ち相手"なんておこがましい。ふたりのトッププレーヤーの高速ラリーを観客席最前列でかぶりついているような、本当にありがたくて贅沢な時間でした。

そして文献を読むたびに「私はこれまで体系的に何かを学ぶということがなさすぎた…いったい大学で何してたんだ…」と自省モードになることしばしば。ゼミの仲間もほぼ音信不通だし、担当教授はもういないし…(涙)

コアテーマ「パラドックス」を見つける。そして飛躍させる

そんなこんなで発散的にアイデアを話すなか、2022年初めに舘野さんが「年末年始に読みふけっちゃったけど、このあたりの論文が面白そうなんだよねー」と見つけてきたのが、「パラドキシカル・リーダーシップ」に関する文献群でした。

「ハーバード・ビジネス・レビュー」(2016)では“Both/And”Leadershipとして、リーダーが「A or B(二者択一)」ではなく「A and B(両立)」を前提としたマインドセットと行動を行うことの重要性が提示されています。

また、北京大学の研究チーム(2019)は、「パラドキシカル・リーダーシップ行動(PLB)」という概念と尺度を開発し、長期的にA and Bを同時に受け入れて調和させるアプローチを研究しています。

『パラドックス思考』

執筆に先立って2022年3月に開催したイベントでは、他にも先行研究が概略されていて、めちゃくちゃ面白かった! CULTIBASEのアーカイブでぜひ観てほしいんだけど…

『パラドックス思考』では「はじめに」で少し触れるのみで、上記の内容はほぼ割愛されます(笑)。というのも結局、先行研究では「『A and B(両立)』を成立させることが組織パフォーマンスに寄与する」「優れたリーダーはA and Bを成立させる」的なことがさまざまな角度から語られているけど、じゃあ実際にどうやって「A and B」を成り立たせるのか? まではあまり語られていない。そりゃどんなリーダーも「A and B」を成り立たせたいのはやまやまだけど(実際、そういう場面はあふれているし)、それができないから「ミドルマネージャー、やればやるほど無理ゲーすぎる。上司と部下の板挟みになってつらい」となるわけで。

というわけで、『パラドックス思考』ではそれにとどまらず、パラドックスを生み出す心の深淵と社会の構造に迫りながら、「首尾一貫しなければ」「真っ当に生きなければ」と思いながらつい逸脱してしまう人間の欲深さ弱さを「めんどくさいけど、愛らしい」と受容することで、パラドックスへの“受け身の取り方”を提示。さらに「パラドックスを編集して、問題の解決策を見つける」「パラドックスを利用して、創造性を最大限に高める」方法やフレームワーク、具体事例を交えて紹介。個人やチームがよりクリエイティブに働き、生きる方法を提案しています。

矛盾だらけの世界に“希望”が持てるスコープを手に入れる

私は今回、「はじめに」を構成させてもらったのと、全体を通して読みやすさやわかりやすさの観点から指摘させてもらったくらいで、あとはもう「第一読者」として舘野さん、安斎さんが猛然と書き綴る玉稿をひたすら読ませてもらって、「面白い!」「うわぁそういうのよくある!」と膝を打ちまくることを繰り返すだけだったので、なんてありがたい仕事なんだ…と思いながらの日々でした。

一冊通して読んで感じるのは、この世界に対する諦念(というとネガティブに見えるけど)というか、「人間ってそういうもんだよな」という一種のあきらめと、それでも「こうすればマシになる」「むしろ矛盾が力になる」と思える希望でした。

SNSを見ていると、倫理観を疑うようなことや相容れない考え方も飛び交っていて、本当に苦しくなってしまうことも多い。でもどんなにそれを否定しても、現にそう考える人思う人はいて、人を“改心”させるなんて、そうたやすくできることじゃない(むしろ「自分にこそ正しさがある」と考える態度こそ危ういかもしれない)。

謙虚さと、学びと探索を深めながら、絶対に相容れない人ともなんとか「折り合える」道をあきらめずに模索しつづけることが、この世界をあきらめずにいられることなんじゃないかなと思ったりもして、それで「はじめに」の最後に「この複雑な世界と折り合いをつける一助になれば」と一文を添えたのでした。

そう、世界って単純じゃない。イヤになってしまうほど。でもその複雑さが人間であることの存在証明なんだろうし、人間が社会生活を営む生きものである以上、そこと向き合っていかなきゃならないんだろうなと思っています。

というわけでたぶんこの本は実際に読んでもらったほうがワクワクするはず! おすすめです! ぜひ書店で見かけたら手に取ってください!!


読んでくださってありがとうございます。何か心に留まれば幸いです。