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出産が怖かった。でも産んでみたらめっちゃ楽しかった話。


今年の誕生日はありがたいことに沢山のお祝いの言葉をいただいた。
誕生日は特別な日だ。この世に生まれた日なのだから。生年月日は事あるごとに必要になったりする。けれど生まれた日のことを憶えている人はほとんどいないだろう。

娘が生まれた日。その日のことはよく憶えている。誕生日って産んだ人の方が感慨深い日なんじゃないだろうか。


出産は鼻の穴からスイカを出すくらい痛い、と例え話を聞いたことがある。

実際、出産は命懸けだ。私の知り合いにも出産時死にかけた、という話をしていた人がいた。でも痛みについてはどれくらいなのか聞いたことがなかった。


鼻からスイカを出したことはないけれど破壊的痛さなんだろうということは想像がつく。出産が怖かった。



でもやってみたら、出産は楽しかった。
年齢とか体力とか経済力とか条件さえ揃えば何回でも体験したいくらい、楽しかった。


正産期に入ってすぐの検診で、「もういつ生まれてもおかしくないので準備しといてください」と言われた。
えーやだ、怖い。
辛い吐きづわりをなんとかやり過した、余裕のない妊娠期間。
心の準備なんてまるでできていない。でも今更やっぱり産むのやめますとは言えない。出産は待ったなしだ。ここまできたらもうやるっきゃない。



たまたま見ていたテレビに鈴木紗理奈が出ていた。
「産まれるときって赤ちゃんも苦しいし痛い思いしてんのやって。」と紗理奈氏。
関東生まれ、関東育ちなので大阪弁が怪しいのは御容赦いただきたたい。
目から鱗だった。
自分だけが頑張るイベントだと思っていた。なんと、まだこの世に産まれても居ない我が子も大変な思いをするとは。



そうか。主役は産まれてくる子どもだ。
もちろん産む方にとっても一大イベントには変わり無い。けれどあくまでサポートだ。私ときたらすっかり主役のつもりでいた。


3キロにも満たない、0歳にも満たない赤ちゃんが痛くて苦しいのだ。
50キロいったりいかなかったりする37歳の私が怖がってどうする。
紗理奈のお陰で目が覚めた。


一気に肩の荷が降りて気が楽になった。ようやくその気になって入院の準備をした。
翌日、私は破水した。


夕飯でも作ろうかな。でも面倒だなぁ。なんて、ソファの上でくつろいでいたらなんかパチっと弾けた感じがしてドドーッと温かいものが流れてきた。あれ?お漏らししちゃった?


破水と気が付き、タクシーと産院に電話する。産院に向かいながら都内の会社に居る夫にもLINEで伝える。
「今日はカレーだよー」
の次のメッセージが
「破水したよ!」
だったので慌てて会社を出たらしい。

事前に登録しておいたママ専用タクシー。運転手さんが優しい。シートにはビニールのカバーがついている。破水していても安心して乗れる。



「ついさっき、お隣さん乗せたんですよ!誕生日が同じになるかもしれませんね。」


ご近所に同じ誕生日の男女がいて幼馴染の恋が始まる。
お互い好き同士、絶対付き合うことになりそうだったのに、もじもじやってるうちにどちらかが別の人に告白されたりして「だって断る理由ないし」なんて三角関係が始まる。傷付けたり傷付いたり。

青春は忙しい。

そんな少女漫画的展開を予想してかどうかは分からないけれど、運転手さんが興奮気味に教えてくれた。


病院に着いて、しばらくして夫が到着した。

破水したからってすぐ生まれる訳ではない。明日の朝までは出てこないと思うよ。助産師さんのアドバイスに従い、夫は一旦家に帰ることになった。


遠慮がちに夫が聞いてくる。
「明日の午後は外せない会議があるから、できれば午前中に産んでくれると助かるんだけどいつ頃産まれそうかな?」

うん、あのね、全然分かんない。
私が産むのは確かなんだけどさ。
いつ産まれるかなんて本当全然分かんない。


陣痛の間隔がだんだんと短くなってきた。痛いけど、まだイケる。
夫が買ってきてくれたお握りを食べたり、歯磨きをしながら過ごす。


書き忘れていたバースプランも書く。準備の良い人は事前に伝えて気に入った音楽を掛けてもらったりするらしい。そこまでは思い至らず、病室に流れている「ゆず」のオルゴールバージョンをエンドレスで聞いていた。
無痛分娩を希望していたのでその旨も書く。どんどん陣痛の間隔が短くなってきた。痛みと体勢のせいでバースプランの字は大人が書いたとは思えないくらい下手くそな字になった。


「あれ?子宮口開いてきたね!そろそろ出てくるかも?」

助産師さんの当初の予想よりも、進みが早いらしい。


痛い。腰の辺りが痛い。
陣痛もいよいよ本気だしてきた。
初産なめんじゃないよ、と言わんばかりだ。
ベテラン助産師さんが腰をさすってくれる。そのときだけは痛みが和らぐ。
助産師さんが分娩室から居なくなるとめちゃくちゃ不安になる。

午前2時ごろ、「立ち会い希望だよね?
そろそろ旦那さんに電話して来てもらった方がいいよ。」と言われた。

陣痛の合間に考える。12時近くまで病院にいたから今起こすと寝不足になっちゃう。もう少ししたら掛けます。今思うと謎の気遣い。一生に一度あるかないかのことなんだから、寝不足で会議に出るくらいなんてことはない。

午前3時。

「これもう待ったなしだよ!電話しよう!掛けるね!」
助産師さんが夫に電話してくれた。

「出ない!寝ちゃってるねこれ!」


その後も何回か掛けるが出ない。
その間に麻酔が必要かどうか確認される。

「無痛希望だよね!先生呼ぶね!でも来る前に生まれちゃうかも!どうする?」

え?どうしよう。
「今から更に痛くなる感じですか?」

「どうだろう、分かんない!」

今ならギリ耐えられる。
でもこれ以上痛いとなるとどうだろうか。自信がない。
呼んでもらうことにした。


夫にもようやく電話がつながり、自転車を飛ばして夫が到着する。


寝癖だらけの先生も到着した。


「麻酔使う?どうする!?」
両手を腰に当てて先生が聞く。

こちらはもう陣痛の痛みで普通に話せない。
「今よりもー!!!痛くなりますかーー!!!」
叫ぶ必要のないことでも叫んでしまう。
全会話にびっくりマークがつく。


「分かんない。もう変わんないかも。」


このくらいの痛みならいけるかも。
ここまで耐えてみて、なんとなく自分の出産の痛みの全貌、みたいなものが見えてきた。いざ産む時の痛みがどんなものか知っておきたい気もする。

リスクは少ないに越したことはない。

無痛分娩はプラス10万円だ。
10万円あったら何ができるか。
可愛い洋服買えるし、美味しいものも食べられる。いっそ温泉旅行に行こうか。こんなときなのに打算が働く。


「せっかくきてくれたのにいいー!!!ごめんなさいー!!!このままいってみますううううー!!!」


先生がガクッと寝癖頭を落とす。


陣痛はクライマックス。
夫が腰をさすってくれる。
言いにくいけど助産師さんと全然違う。代わってほしい。


ベテラン助産師だ。たださすっていただけではなかった。技術がいるのだ。夫は普通のサラリーマンなのだから致し方ない。ベテランと比べては気の毒だ。
代わってもらった。


もう産まれそう、と感じるのだけど、まだいきまないように言われる。いきみたいのにいきんじゃいけないのか。いざ産むときには、目を閉じないように言われる。出産シーンのドラマとかでは目は閉じていた気がするけど正式には開けるのか。

「ヒッヒッフー」が始まった。
これこれ!これだよね!出産といえば
ヒッヒッフーだ。

いきみはじめたら、赤ちゃん以外にも何か出そうな感じがする。これはまずい。非常にまずい。社会に生きる大人として事前に申告しておかねば大変なことになる。



「うんちが出そうですーー!!!」


「大丈夫だよ!出していいよ!」


そうなのか。
そう、出産という命の誕生、生命の神秘。
その場においては失禁さえ許されるのだ。


「ぬおおおおおおおおおおお」


出したこともないような声が出てくる。
人間以外の獣になったような感じ。




「うまれたよー!!!」


え?もう?
あれ?私まだまだいけるよ!!
まだ獣になりきってないよ!
半獣だよ!

これからいくよー!!と思った矢先に産まれた。

赤ちゃんの泣き声は、テレビでやってたのと全然違った。
あんなに大きな声じゃない。
2,798g。
3キロにも満たない産まれたての赤ん坊は蚊の鳴くような小さな声で泣いていた。
さっきまでびっくりマーク付けながら会話していた私の耳にかすかに届く、か弱い声。


なんか色々ホルモンが出まくって、涙が止まらない。産み終わっているのにびっくりマーク付きで叫ぶ。
「皆さんー!!!ありがとうございますううううううー!!!」

お世話になった産院の方たちは、みんな優しかった。先生も、夜中に自転車飛ばして来てくれて、なのに麻酔やっぱいいって言われて、それでも労いの言葉を掛けながら後処理を進めてくれる。優しい。


楽しかったのは、やはりそれが命懸けだったからだと思う。命を懸けて何かに取り組むことなんて、人生でそうそうあるもんじゃない。

産まれたばかりの娘は、光っていた。
比喩でもなんでもなくて、本当に光り輝いていた。娘だけじゃない。
保育器に並ぶどの赤ちゃんも、光っていた。


誕生日はやっぱり特別だ。
その人がこの世に生まれた日なのだから。ドイツでは自分の誕生日に自らケーキを持って出社するらしい。振る舞うから祝ってねってことだろう。日本だって自分の誕生日に御赤飯を持参するサラリーマンが居てもいいじゃないかと思う。

これから誕生日の方も、もう今年は誕生日がすぎた方も。

お誕生日おめでとうございます。




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