秋にふさわしい名画・工芸〜「花鳥風月」展
「花鳥風月〜水の情景・月の風景」展を見てきました。
(皇居三の丸尚蔵館で10/20まで)
皇室にまつわる絵画、工芸品、書など27点。どれも国内最高峰の名品なので、この数でも見応えと満足感があります。
その中から、感銘を受けた11点を選んでみました。
ご紹介作品
近江八景蒔絵棚
まず入口を入って最初に展示されているのは、金色に輝く工芸品です。
琵琶湖南部の「近江八景」を蒔絵で表現した「近江八景蒔絵棚」江戸時代(18世紀)
特に上の左側の2枚の引き戸は「石山秋月」と言われる、銀の満月と松や梅、橘に囲まれた石山寺が表されています。石山寺といえば、紫式部が『源氏物語』の構想を練ったと伝わる寺。
石山寺蒔絵文台・硯箱
石山寺にまつわる工芸品がもう一つ。 「石山寺蒔絵文台・硯箱明治32年(1899年)
第5回パリ万博(1900年)に出品するため、明治天皇からの御下命によって、帝室技芸員という、宮内省公認の一流芸術家であった、川之邊一朝が作った作品です。
硯箱の絵柄は、石山寺のベランダのような場所から、琵琶湖に映った月を眺める紫式部の姿がわかりますね。
なんでも8/15に、その眺めを見て、源氏物語の「須磨」の帖を書いたそうです。
七宝墨画月夜深林図額
パリ万博のために制作された作品がもう一つ。
同じく帝室技芸員の濤川惣助、制作の七宝画、
「七宝墨画月夜深林図額」明治32年(1899年)
墨の濃淡に、琳派のような「たらし込み」まであり、水墨画を七宝の技法で表現した作品で、使った釉薬は300種類以上!
縦およそ150cm、横95cmの堂々とした大きさで、見つめていると、作品の中に吸い込まれて行きそうな、幽玄な美しさが見事でした。
夕月
また、なんとも優しい表情のブロンズ像もありました。
「夕月」藤井浩祐・大正11年(1922年)
クラシカルな髪型と服装で団扇を持ち、月を見上げて微笑んでいる姿が、見ている人を和ませます。昭和天皇の弟・秩父宮雍仁親王の成年のお祝いに、お育てした職員さん達から贈られた品だそうです。
塩瀬友禅に刺繍嵐山渡月橋図掛幅
素晴らしい刺繍画もありましたよ。
「塩瀬友禅に刺繍嵐山渡月橋図掛幅」明治20年(1887年)頃
桜の時期の京都・嵐山の渡月橋と桂川の風景を、友禅染めと刺繍で表現しています。快晴ではなく薄曇りで、雨が弱まり空が明るくなり始めている…このへんの微妙な空気の湿り具合や気温などが感じられそうな、繊細な趣のある作品です。
雨後
”趣がある”といえば、こちらの作品も心に染み入って来ます。
「雨後」川合玉堂・大正13年(1924年)
雨上がりで濃い霧が立ち込める画面奥に、光の柱のように神々しい虹が掛かり、手前では漁師が黙々と作業している。
自然の奇跡的な雄大さの中にいる人間もまた、小さいながらその一部である、という自然への畏敬の念を抱かせる作品です。
この作品が、今回私に最も感銘を与えた絵画でした。
夏山蒼翠・寒山一路・霜崖飛瀑
雄大な自然を描いたこちらの山水画も、素晴らしかったですね。
「夏山蒼翠・寒山一路・霜崖飛瀑」佐川華谷・大正9年(1920年)
右の掛け軸は夏の雨上がり、鬱蒼と茂る木々の間から、勢いよく流れる渓流が爽やかですね。真ん中のお軸は、ふかふかの雪を被った冬山を縫って、一本の道が通り、左は霜が降りた急峻な崖を、ダイナミックに流れ落ちる滝の絵に、心奪われます。
霜崖飛爆の画賛(絵の上部や余白に書き込まれる、絵に合わせた漢詩や和歌などの文章)は、李白の「望廬山瀑布(廬山の瀑布を望む)」が元になっているらしいですよ。
梅花皓月図
そして今回の展覧会の目玉の一つである、伊藤若冲の「動植綵絵」の中の、「梅花皓月図」江戸時代(18世紀)が、ありました。
若冲が10年をかけて描いた、有名な「動植綵絵」30幅の中の一つで、明治22年(1889年)に相国寺から皇室に献上されたそうです。
幹や枝の色の濃淡、所々に青く光る苔がアクセントになって、満月の下、芳醇な梅の香が匂って来そうな豪華さ。
白い梅の花の描写は、間近で見るとさほど精緻に描かれているわけではなく、チョンチョンと白絵の具をアバウトに置いたような印象でしたが、少し離れて全体を見ると、淡灰色の背景から光のように浮かび上がってくる様は、さすが若冲だと感じました。
寒林幽居
それから、和む絵を2点、ご紹介しましょう。
「寒林幽居」小室翠雲・大正2年(1913年)
冬枯れの木々の上に、うっすらと輝く月が昇り、隠遁者は小さな家で書物を読み耽る。冷たい夜気に包まれた山中で、聞こえるのは微かな水音だけ…静かな静かな夜。
こんな庵で、心ゆくまで本を読めたら…と思うだけで、うっとりします。
暮韻
和む絵のもう一点は、「暮韻」橋本関雪・昭和9年(1934年)
この絵の何が和むかというと、「眼」なんです。雌牛の眼。
来場前にパンフレットで見た時は、地味であまり興味を引かない絵だったのですが、作品の前に立ってビックリ!
すごい存在感というか、オーラを発している作品だったのです。
(やっぱり、こういうのは実物を見てみないと、わからないものですね)
縦167cm、横191.5cmの大きな画面から、この草原の風が吹いて来るようで、牛の存在感が迫ってきます。
大きな雌牛の穏やかな慈愛を宿した眼が、見ている私たちを見返し、私たち鑑賞者の存在を感じ取っているような気がする、不思議で魅惑的な絵でした。
雪月花
最後は、やはり大トリにして、本展覧会の「看板」作品、
雪月花・上村松園・昭和12年(1937年)
春の桜、秋の月、冬の雪。日本の四季の中で最も美しいとされる、この三つを描いた、松園62歳の傑作です。
平安時代の雅な宮中文化をテーマとした連作で、
女房が御簾を巻き上げている向こうの庭を、これから皆で愛でるであろう「雪」、
脇息(肘掛け)に腕を預けながら空を見上げているのは、なんと石山寺での紫式部と同僚の?女房らしい「月」、
散る桜の花びらを袖に集めようとしている、幼い若君と姫君の「花」。
これは、のちに帝室技芸員になる松園が、大正天皇の御后・貞明皇后の御下命を受けて描き、画家本人も、自身の画業の一つの頂点であると認めていた作品だそうです。
他にも、載せきれなかった素晴らしい作品が、たくさんあります。
写真では写しきれない色彩の鮮やかさや作品の質感など、ぜひご自分の目でご覧になってみて下さい。
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