再見、香香!
2023年2月21日、上野動物園のパンダ、シャンシャンが中国へ返還された。当初の計画では生後2年で返還される予定だったが、新型コロナによりおよそ2年間のうち5回にも渡って延期されていた。
わたしはパンダの魅力に惹き込まれていたこともあり、昨年の秋頃から早ければ年末、遅くとも翌春の返還になるかもと気になっていた。そろそろかなというタイミングもあり、数カ月ぶりに上野動物園のパンダファミリーを訪ねることにした。まぁその後も12月まで何度も通うことになるのだが・・・。これはそのときの写真の一部である。
上野動物園パンダファミリーにはリーリー、シンシン、シャンシャン、シャオシャオ、レイレイがいる。一応念押ししておくと、今回登場するのはシャンシャンだけなのだ。
パンダは白と黒のもふもふな見た目に加え、マイペースでグルメだったり、テンションが上がるとでんぐり返しをしたり、気に入らないことは頭を抱えたり駄々をこねるような態度を示す。まるで中に人が入っているのではと思わせる仕草も含めて魅力いっぱいだ。
パンダが熊科である以上、人間にはかなわない凶暴な一面があるものの、絶滅しかけるほどの危機に陥ったのは、生存競争を勝ち抜くために竹を主食にするというニッチな選択や生来の温和な性格、天敵のいない環境で生息してきたことの影響よりも、人間による毛皮を狙った乱獲や環境破壊がその原因ということだけは忘れないようにしたい。
上野動物園では常にパンダが人気だ。中でもシャンシャンは600億円以上の経済効果を生み出したとも言われている。まさにジャイアントパンダ。観光で訪れ、ひと目見ようと時間をかけて並んでもうしろ姿や体の一部しか見れなかったというのはよくある話。とはいえ肉眼で観た瞬間に魅了されたひとは多かったはず。写真や映像と実物ではやはり次元が違うのだ。
動物園を訪れることでたのしくも癒やされる気持ちになれるのも、日々動物の飼育・研究に携わっているスタッフの方々のおかげ。わたしたちが知らないだけで、数多くの苦労や困難があるはず。一利用者として改めて感謝と敬意を表します。
パンダといえば頭から背中にかけての丸みも特徴的。まるでアンモナイトの対数螺旋のような黄金比を感じる。さらにもふもふとくれば、これはもうアートの世界。
ここで触れようか迷ったけど、パンダの列に並ぶたびに一部のYouTubeなどの動画撮影を中心とする人たちのマナーの悪さに怒りを感じたのは一度や二度ではなかった。他のパンダを観るときにもあの輩たちの前後には絶対に並んではいけないことは貴重な教訓。
昨年の最後に訪れたのは12月27日。10月から数えて5回目の上野動物園。年明け以降はシャンシャンを目的とした大混雑と倍率の高い抽選が再開されるはず。だからシャンシャンに会うのはこの日が最後という気持ちだった。
年末ということもあり、これまで経験してきた平日の混雑具合とそれほど変わらないだろうと考えてたものの、いつもならガラガラだったオンラインチケット専用レーンを含め、どのレーンも並ぶのをためらうほどの大行列ができていた。
一巡目の待ち時間は90分。いつもなら2巡はできる時間だ。しかし結果的には、この行列のおかげで過去最高に近い写真が撮れた。とくにここ数回は何度並んでも思うように撮れないことが続いていたから、ただただラッキーに恵まれたと思っている。ちなみに1月最後の自由観覧の日曜日は最大で260分待ちだったそうだ。
今使っているカメラも望遠レンズも元々はシャンシャンを撮るために買い替えたものだ。お金はそれなりにかかったけど、それ以上の経験と思い出を残すことができた。日々の写真を撮ることでも活躍しているし一石二鳥だ。よいきっかけが繋がったと思う。
ここ最近はカメラメーカー各社のどの機種、どのレンズを買った使ったということよりも、行動して機会を作り出すという価値観を得られたことが大きい。遠くても近くても「そこ」へ行くことがわたしにとっての冒険だ。
さて、現在シャンシャンがいるのは中国四川省成都市から150kmほど離れた雅安碧峰峡基地というジャイアントパンダ保護研究センター。成都を中心にそのまわりにはいくつもの保護センターがあるみたいだ。コロナ禍の出口戦略も見え始めたし、成田から成都までの直行便もある。旅行会社にとっても大きなビジネスチャンスを迎えているはず。
ニュースでも話題になっているように、今回のシャンシャンの返還は繁殖を目的にしたものだ。近いうちに良い相方にめぐり逢って子どもを授かることがあるかもしれない。その子どもや末裔たちがかつてのランランやカンカンのように、今日のリーリーやシンシンのように日本の地を踏むことがあるかもしれない。そんな未来に広がるいろんな可能性をひとり妄想しがちだが、とりあえずはこのへんで止めにしておこう。
今はとにかく上野にいた頃のように、すこしでも安心して眠れますように。
検疫期間は一ヶ月。その後は現地で一般公開されるとのこと。元気なシャンシャンがモリモリとタケノコを食べたり、縦横無尽に暴れまわるおてんばっぷりに期待したい。ついでにニンジン嫌いを克服してたら最高じゃないか。
長くなってしまったが、いつの日か中国のシャンシャンと再び会えることを願っている。長い人生の中でのちょっとしたお別れだけれども、中国語にはこんなときにぴったりの別れの挨拶の言葉がある。その意味は読んで字の通り、わたしの好きな言葉だ。
せっかくだから、今日はその言葉で締めくくろう。
再見、香香!
おしまい