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ゲームデザイナー Saashi の仕事部屋〜2020年9月後半

Saashi & Saashi(サアシ・アンド・サアシ)のSaashiです。今回は2020年9月後半の分。残暑のせいか疲れが抜けなかった時期でした。とはいえ淡々と日々の仕事をやりつつ、スタジオの環境整備を少しずつ進めていたのでした。

「ゲームデザイナーSaashi の仕事部屋」シリーズについて
京都でアナログゲームを作っているんですが、手書きで日記書くのがだいたい滞って記録が記録にならないので、noteで綴ってみようかと思い、書き始めてみてるシリーズがこちらです。半月に一度くらいで載せてます。
ただ、わりと忙しくしている気がしているわりに、特に変わり映えしないので地味すぎる日常ですが、自分の備忘録的に書いています。全日の日記でもないし、その時思ったこと書くだけの日とかもありそうですが、「こういう人もいるのだな」と気楽な感じでお目通しいただけると幸いです。

9月後半某日

1季節に一度 Saashi & Saashiスタジオに来てくださっている Engames 杉木さんが来訪。貴子さんも交えて、久しぶりに話したり少しボードゲームしたりで楽しい時間を過ごす。

個人的にお聞きしたいこともあって、いろいろ話を伺う。夕食はおいしいものを食べて解散。ボードゲームシーンを猛烈なスピードと濃度で爆進しておられる杉木さんなので、会ってお話するたびに刺激を受け、また勉強にもなり、ぼくも楽しんで進もうと思えます。

9月後半某日

【深夜のジレンマラジオ】Engames 杉木さん回。昨日リアルでお会いしていたのに、この日はオンラインで画面越しにお話するのは不思議な感じがしました。

テーマは「チームでボードゲームを作るパブリッシャー(出版社)という存在について」。杉木さんの圧倒的な分析の仕方の話や、海外ゲームをローカライズする際の判断などいろいろ他では聞き難いことを聞くことができました。

9月後半某日

「環境を整えること」を今年の目標の一つにしているのだが、その一環として Saashi & Saashi スタジオの一部模様替えを行なう予定です。いまは1つになっているスタジオとオフィス部分を2つに分けようという算段で、それに伴い、まずはその部屋のエアコンの清掃を依頼しなくてはで今日はその清掃を見守る。

次は部屋の配線を強化してもらわなくてはならない。今週中にできるかな。そのあと、模様替えを本格的にしてからなので、新しい家具を運び込むのはまだまだ先の様子(すでに購入してある家具は依然お店に保留中)。

ダリル・チョウさんは昨年ぼくと『旅のあと』を共作したシンガポールのデザイナーだが、今年はいくつかKickstarterしていて、いまは新作ゲーム『Plantopia』がKickstarter中との連絡を受けたので、早速シェア。

軽量級のゲームのようだ。効果を使い植物を育てるゲームらしく、中でも天候のルールが特徴的な感じがしている。アートも可愛く、これはなにかのキャラクター関連なのかな。詳しくわからないのですが、日本語ルールも有る様子。この日の時点ですでに目標額は達成していたのだが、その後グングン伸びて大成功だった様子でなにより。

9月後半某日

今季、プレミアリーグの試合を観ていて最も印象的なのは、やはりリーズ・ユナイテッド。ビエルサが数年かけて戦術を浸透させたチームで楽しみしていたが、小気味良さがちょっと尋常ではない。

2節のリーズ対フルアムでも、開幕戦に続き、リズムよく攻守に動きが良い。味方同士が互いに走り込む先を完璧に把握し合っているのが見ていてわかる。おそらく選手への指示と戦術的役割が(たとえ複雑なのだとしても)明確なので頭の中が整理されまくっているのだろう。対戦相手はさぞやりにくいように思う。戦力的に下から数えたほうが早いチームでありながら、ビッグクラブとも対等に殴り合えるに違いなく、戦術の鬼が時間かけて作っただけあって、これは相当に楽しみだ。

ここのところ、どうも疲れが抜けない。
眠りが浅いのか。思えばここ数年、仕事モードの思考が日常抜けないのが常態化している。それを「完全に」オフにすることがほぼなく、唯一できるのは、ヘアサロンに滞在してる時間だけかも、という気がする。貴重だけど毎日行くわけにもいかないしなぁ。一回一回を楽しみに味わおう。というか、他にもオフな時間(ゲームともまったく関係の時間)を作るべきなのだ。

9月後半某日

週末、久しぶりに大阪の友人夫婦が来訪してくれて京都で会う。お子さんも大きくなっていて、半年で子供はずいぶん成長するのだなぁと感心。

その友人はボードゲームを頻繁にする人ではないのだけれど、日常の中で時々子供と一緒にゲームを遊ぶようになってきたらしく、先日Instagramで『バスルートをつくろう』がすごく好きだという人(全然知らない人らしい)と繋がったよ、と報告を受ける。ボードゲームの広がりをなんとなく感じるなど。

9月後半某日

アイデアを書き留めているリーガルパッドを時々見直すと、まだテストキットを作るまでには及ばないが、だいたいは固まってきたように感じるゲームアイデアがわりとあることに気づく。

取り出して作り始めるとすれば、おそらくすぐにキットを作る段階に到達しそうなものだが、最近はそのあたりを急がないようにしている自分がいる。経験上、なんとなくその先の展開をおぼろげに予測できているのだろう。

「これは!」と思うような、光るものがその中にあればすぐ作っている。それらはそうではないので作り出してないのだろう、の意。(ただし、これまでいくつも拙速に作り始めて「あれれ?」というパターンを自分の中で繰り返してきた経緯が前提にあります。一方、思いつきで作ってみて良かったパターンも稀だが、無論あります。)

いざ、テストキットを作ろうレベルで動き出す時に、特に気をつけているのが「それを作りやすいから作り出しただけなのでは?!」と自問すること。案外、作りやすそうなものに飛びついて作って形にできたことに喜んでいるだけ、というパターンが多いのだ。それは形にはできているけれど、「形にしやすかっただけ」に過ぎなくて、実はいま自分が興味をもって作りたいものでも、光るなにかがあるものでもない、ということが少なくないので注意が必要だ。

光るものがあるかも、と自分が感じられるかどうかが大事で、そこは「作れそう!」な勢いの中で盲目的になりやすく自分にとっては危険である。それがないまま作ると、大したことないか途中で飽きて手放すかのどちらかになることが多いのだ(テストキット作るにも時間的・労力的コストがかかるので、拙速なだけで作り出すのは避けたいわけである)。

光るものがあるゲームアイデアというのは、自分の場合、20個のタネのうち2つ3つあるかどうか、というところが正直なところではないか。

9月後半某日

Saashi & Saashiのミーティングでは、さまざまなことについて貴子さんと話している。具体的には、直近の問題についてや、将来的な計画、自分たちのビジョンや現状をもとにした見直しの作業や、現在交渉中の契約に関わる案件、いくつかの新作についての話などをしている。

時折、思い出したように不思議な内容の会議もする。
たとえばこの日は、既存のボードゲームのそれぞれの難度を、そのゲームのルール量とは別の角度から測って数値化・リスト化していくことをしてみた。50作くらいのゲームをリストに並べたということなのだが。

難度を測るというのは、モデルがいないと無理な話なので、とりあえず今回のモデルとして見立てたのは、とある知人(ボードゲームは年に三度くらい誘われれば簡単なゲームなら遊ぶ人)で、その人をモデルプレイヤーとして想定して考えていった。

その人が気兼ねなく説明を聞いて理解し遊べるものをレベルと規定してみて考えていった。その人が「簡単だな、このゲームもう一回しよう」と言えるものを、「簡単過ぎて物足りなく感じるもの」を、逆に「理解はできるけど2回続けてプレイするのはつらい」をとして、それらに該当する既存ゲームの名前をリストアップしていったのだ。

あくまで、「そのモデルプレイヤーならこう感じるだろう」ということが主体である。知人のわたしたちだからこそわかる(という気になれる)感慨でしかないのだが、そうする考察の中で新たな知見を得られたりするからおもしろい。

そのモデルプレイヤーにとって、「このゲームは気軽に理解し遊べるけど、このゲームは理解できるものの楽しんで遊ぶことができない」という差が明確に分かれるラインがあった。興味や理解の部分で、越えられない壁というものがどうやら存在する。それらを分けるのはルールのどのあたりの部分なのか得点形式で言えばどういうところがネックになるのか手順の複雑さの許容範囲はどの程度か。彼がハードルだと感じられるだろうポイントを詳細に洗い出していくわけである。

ここから得られた知見を念頭に置いて、再び先ほどのリストに戻ると、それは明確な線となって、モーゼの前に道ができるかの如くにはっきり分かれるものがまた見えてくる。もちろん、その隔たりの壁は、モデルプレイヤーを別の人に変えたらまた違ってくることは当然だ。今回はその知人を想定して眺めた観点に過ぎない。

そういう見立ての上で、リストアップしたゲームたちを眺め、勝手に新たな知見を得られたりする(気になる)のが存外おもしろいのである。

その越えられない壁となるラインが、5と6の間に横たわっていると仮定すれば、7や8のゲームを簡易的に作り替えていっても6までにはできるが、壁を越えて5までには調整できない、ということが見えてくるわけである。逆も然りで、4のゲームを複雑化して5にはできるけれど、6には達し得ない。どうしても6にしようとするとそれは4の時にあったそのモデルプレイヤーにとっての「とっつきやすさ」を手放すことでしか得られないということがわかったりする。抽象的に書くとわかりにくいと思うが、そういうことがリスト上では(自分たちにとっては)実感としてわかってくる。

そうすることでゲームデザイナーの自分としては、新たなゲームをデザインする際、たとえばルールアイデアの組み合わせや、選択で悩んでいる自分に対して、その知見を元にした「明確な」見地からの自分へのアドバイスができたりして助かる場面が出てくるのだ。自助作用と言っても良い。とあるモデルプレイヤーを仮定しての仮説に過ぎないことは承知の上で、それでも「越えられない壁」というラインが何によってもたらされているかの部分については明確なので、判断がつきやすい側面があるから、それがゲームデザイン中の自分の、ある時点にとっては有用であったりするのだ。

9月後半某日

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貴子さんと久々に一緒に映画を観に行く。『TENET(テネット)』を鑑賞。中身的にはいつも通りのクリストファ・ノーランである。時間をテーマにしたものはだいたい好みだ。

帰宅してから、作業したりなんだりしたあと【深夜のジレンマラジオ】の放送。今夜はカナイセイジさん。この番組でいろんな方とお話しているが、傾向として経験値の高い方は回答の中身が明確だと感じる。日頃からやっていることや考えが整理されているのだろう。万事勉強になります。

9月後半某日

海外の工場からサンプルを受け取る。確認したところ、品質自体は文句ない出来だったが、アッセンブリのところでちょっと行き違いあるようで、すぐ連絡する。だが、不具合と見えたそれは送られてきたサンプルだけのミスで、量産したほうには問題なしとの確認までに数時間を要す。

午後はスタジオ環境整備のためのブレーカー分岐の工事が入り、完了まで見守る。1時間半。ともかく、これで下地は整ったので、あとは大規模な模様替えをする段階まできた。牛歩である。

今日はまだ仕事がほとんど進んでない気もするけど、なんだか疲れてしまったので、ちょっと気分転換に近場のカフェに行く。コーヒー飲みつつ読書をして放心。そのあと1時間ばかりリーガルパッドを広げて考察をする。そちらはわりと捗った。帰宅してから、事務的な処理を進める。

9月後半某日

グランドトランクジャーニー』を遊ばせていただく機会があった。Spielworxxの中では軽めの鉄道ゲームで、手番はテーベ的な順取り。見通しは悪くない中で、圧縮できない感じのカードデッキを組んでいく。新しく獲得したカードを捨て札や山札に加えるので時間差があるのがミソである。すぐに使いたいのだが、それがままならない感じがおもしろいところ。得点野中で改良カードのポイントが大きすぎる気もするけど、それも戦略の幅なのかな。

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一度遊んだあと、自分の中でなにかが残ったのか引っかかったのかわからないが、折に触れて考えることが多いゲームだった気がする。おもしろい・おもしろくないとは別のところで不思議な感慨が残っているのだ。メカニクスのわりに短めの時間で終わるゲームだからだろうか。プレイ時間の長短によって、ゲームとしての濃淡はかなり調節されるから、それはあるかもしれない。

良いゲームとか、好きなゲームとか、そういうくくりではなくとも、プレイ後に妙に気になるゲームというのがあって、この『グランドトランクジャーニー』はそれだったようだ。ただ、なにが気になっているのか、興味深い感触がなにによってもたらされているのかは、すぐにはわからない。それを時間をかけて考えていくのは、まあ、ある意味ではデザイナーの密かな楽しみなのかもしれない。

9月後半某日

ボードゲームの事業の経理関係というのは、他の業種に比べるとそれほどイレギュラーなことが多いわけではないと思うけれど、海外での製造や、各種の税や、カウントの区切りのタイミングや、契約から得られるお金などが複合的に絡んでくると、仕分けや解釈でわからない点がぽつぽつと出てくるので、税理士事務所でいくつか聞いてくる。

ちょっと先の計画も練りつつ、疑問点を明らかにして、わからなくはない状態にしていくのだが、本来は自分たちでなく誰かにやって欲しいなと正直思っている。丸投げとはいかないまでも、どこかでなにかを手放していくことは必要だと感じている。

現行では存外、ゲームデザインや制作以外のタスクが多いのである。それが年々割合を増している気がしていて改革が必要なのは明確なので、今年はその改革や、環境作りを念頭において過ごしているつもりではあるのだが、遅々とした進行でもはや秋を迎えようとしている。今年の内に、現在の自分たちにとての良い制作環境(部屋とか物理的なものだけでなく、制作をしやすくするためのクリエイティブなシステムを含む)を自分たちに用意してあげられるのか。差し迫ってますが、楽しみつつ進めたいとは思っています。

というわけで、今回はこのあたりで。

Saashi

2020年9月下旬

Saashi & Saashi
Twitter / WEB


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