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映画感想文「ミツバチと私」自分が何者か悩むすべての人に。2024年1月公開

自分は何者か。

いくつになってもこの問いに遭遇する。

8歳のアイトールは三人兄弟の次男だが、トランスジェンダーであり、出生児に病院で特定された性別と自己認識している性別が異なる。

プールでは男子更衣室に行きたくないし、身分証明書に記載される性別にも違和感いっぱいで、事あるごとに苦しい思いを抱えてる。

世間の決めつける性別は彼女を追い詰める。

生まれ変わって女の子になりたい。それが唯一の願いだ。

母親は愛する子供を理解しながらも、その事実にどう向き合っていいか、わからない。

そして彼女自身もまた違った意味で、自分が何者かを問い続けてる。

才能ある彫刻家の父親のもとに生まれ、自らも芸術を志していたが、若い頃に挫折。その夢に再び向き合おうとするが、自分には才能があるのか?という残酷な問いが彼女を苛む。

ある夏、彼らはフランスから祖母の住むスペインにバカンスに向かう。

そこで遭遇するのは、夫の陰で自分の夢を犠牲にして生きてきた祖母の厳しい態度であった。

自らに対し何者であるかの問いを封印した彼女は、娘や孫のそれぞれの問いを受け入れることができない。

そんな悩める3世代の物語。

トランスジェンダー本人だけではなく、母や祖母の苦悩も描くことによって、より重層的なストーリーとなっている点はとても良い。

しかし、残念なのは表題にもなっているハチとの関わりが今ひとつ薄いことである。


原題は「2万種のミツバチ 」こっちの方がまだ意味通じる


祖母の姉、アイトールから見たら大叔母にあたる人物が養蜂家であり、理解ある彼女のもとでハチに向き合うことでアイトールは癒されていくのだが、その過程の描き方が少し物足りない。よってハチによって多様性を学び自分を受け入れる、と語るには説得力が薄い。

3世代の女達か、アイトールのハチとの関わりか、どちらかにもう少し絞ってもよいと感じた。

更に印象的だったのは兄弟はじめ、同年代の子供達の方が戸惑う大人達よりはるかに自然とアイトールを受け入れていたこと。

いかに大人が無意識に先入観を持っているかを思い知らされる。

主演のソフィア・オテロは、ベルリン国際映画祭で史上最年少で主演俳優賞を受賞。繊細な演技は見応えあり。

自分が何者か問い続ける人向け。誰が観ても自らごととして受け止めることができる作品に仕上がっている。

東京国際映画祭で視聴。公開は2024年1月5日予定。

これから公開の新作映画が盛り沢山公開で楽しめる1週間

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