映画感想文「リトル・ダンサー」23年ぶりリバイバル上映、11歳の少年の瑞々しさに泣ける永遠の名作
ともかく大好き。
そんな作品。人生Best10に間違いなく入る映画だ。
1980年代のイギリスの炭鉱町。サッチャー政権によって次第に行き詰まってゆく炭鉱産業。
そんな希望のない町に住む11歳の少年ビリー(ジェイミー・ベル)。父も兄も炭鉱労働者。母は早くに亡くなり祖母と暮らしている。
マッチョな父はボクシングに通うことを強要するが、ビリーは馴染めない。彼が好きなのは音楽に合わせて踊ること。
ある日ボクシングジムの隣にやってきたバレエ教室に心惹かれる。女の子の中に混じって踊る彼を人は皆笑う。この街で男がバレエを踊るなんて前代未聞なのだ。それでもそこは彼にとって幸せな空間だった。
やがて彼の中の才能を見出したバレエ教師(ジュリー・ウォルターズ)によって彼の前に大きな扉が開かれる。
しかし「男にバレエなんて」と反対する父と兄。ビリー自身も小さな街から未知の世界へと、なかなか一歩を踏み出せない。
貧しい暮らし。未来のない職業。閉鎖的な小さな街。全て八方塞がり。その中でビリーの「幼さ」が唯一の救いだ。そう、「若さ」というにはもっと心許ない、無邪気で真っ白な「幼さ」。
愚痴ばかりでそうな暮らしでも、彼はそこしか知らない。他と比べる情報や経験もない。だから、絶望には至らない。
もちろん、少年ならではの悩みはある。それでも友達と屈託なく冗談をいいつつき合う。ステップを踏んで踊り歩く。毎日は喜びと発見に満ち溢れている。それが未来があるということだ。
その熱量がひたすら眩しい。そして彼のその輝きが作品に明るさを放っている。
23 年前にスクリーンで観た。その時はビリーの気持ちに思いを寄せた。未来に向けた好奇心、わくわく。そこに混じる不安や恐れ。とてもよく、理解できる気がした。頑張れ、ビリー、飛び立て!と心から願った。
だが、今回は父と兄の思いに気持ちが向いた。人生を賭けプライドを持って全うしてきた仕事が否定された。生まれ育った街も衰退の一途を辿っている。そんな環境に置かれ、見ないようにしていた現実を突きつけられる。
最初はビリーに反対していた父が次第に変わっていく。苦渋の思いで自分の価値観を変換させていく。その過程に涙が止まらなかった。いや、鼻水出るくらいに号泣した。
そしてこの作品。なんといってもカタルシスを得るラストが素晴らしい。このラストもまた、号泣レベルである。
10月4日からデジタルリマスター版でリバイバル上映。その前に奥山大史監督オールナイトで視聴。彼の影響を受けた映画ということで先行上映していた。
良い映画は、観る度に発見がある。必見である。