映画感想文「劇場版アナウンサーたちの戦争」太平洋戦争に加担したアナウンサー達の葛藤を描く力作
知らなかった。
第二次世界大戦中にNHK国営放送のアナウンサーが声の力で戦争を支援していたことを。
いまから80年前。テレビもSNSもない時代。情報は新聞とラジオから流れてきた。ラジオは人心を操る重要なメディアであった。
日本軍はあっちから攻めてきたよと違う方角を流し、敵を混乱させる。本当は大敗だったのにまるで日本軍が大勝利をおさめたような嘘を伝え、味方を鼓舞する。
敵にも味方にも真実は捻じ曲げられ、伝えられた。
恐ろしいことだ。だがそれでも、封印したい過去を自ら吐露するNHKにいくばくかの好感を持って本作を視聴した。
真珠湾攻撃の開戦第一報、8月15日終戦の玉音放送、この両方に関わった伝説のアナウンサー、和田信賢(森田剛)。彼を主人公に、悩み苦しみながらも戦争を支援し続けたアナウンサー達の葛藤を描いた物語。
一年前にNHK総合テレビで放送された番組の劇場版だという。テレビを持ってないのでこの作品で初見。実話を元にした創作ではあるが、込み上げる臨場感があった。
何より驚いたのは、当時占領したアジア各国に放送局を設置していたこと。そうなんだ、全く知らなかった。
もちろん、目的は放送の力による洗脳。いわば国のミッションを持ち、次々と世界に配属されるアナウンサー達。もちろんそこは戦地である。危険満載、軍人並みに自らの命をかけた赴任だ。
なぜ、そんなことが。思わずため息が漏れる。
実はこの時代のことは、他にも色々信じ難い。特攻隊がその筆頭だが。胸が痛み、なぜなんだと自問自答し、大人になった今もうまく飲み込めない。
それでも、この時代に生きた人々が葛藤した末に今がある。そして、その時代の人にしか理解できないこともある。
そんな思いを改めて噛み締めた作品である。
同僚アナウンサーに高良健吾、安田顕、浜野謙太、橋本愛、中島歩、小日向文世などが登場。それぞれの苦悩に思いを馳せた。