映画感想文「ミセス・クルナスvs.ジョージ・W・ブッシュ」米軍収容所に5年監禁の息子を取り戻す母の物語
笑いの配分は難しい。
それをしみじみ思った作品。
実際にあった、大変憤りを感じる事件を扱っている。恐らく、そのシリアスさを笑いで包み込み、それによって広く多くの人が視聴することを狙ったと思われる。が、そのせいで本来訴えたきことのインパクトが弱くなっている。
ドイツのブレーメンに住むトルコ移民のクルナス家。3人兄弟の長男ムラートは旅行先のパキスタンでタリバンの嫌疑をかけられ米軍に捕まってしまう。行き先はキューバのグアンタモナにある収容所。
時は2001年。911の同時多発テロの直後。アメリカが血眼になってイスラム教徒をタリバンではないかと疑ってかかっていた時期である。
なんとムラートは5年もの間監禁される。何の罪も犯していないのに。しかもその間に法的な裁判もなし。つまり宙ぶらりんな状態で何が罪かもわからず、その罪の議論(裁判)もされないままの拘束である。なんと非人道なことだろう。
この事件を、彼の解放に向けて全力で立ち向かったその母ミセス・クルナス視点で描いている。
これがまた傍若無人な強烈なおかん、である。どんなに偉い権威に対しても臆せずルールも無視して息子の解放を働きかける。まあ、そこはその熱情無くして成し得なかったと思うので、全然オッケーである。
が、問題は、その傍若無人ぶりが度を超して描かれていることである。懸命に対応してくれている弁護士との約束を守らない。時間に遅れる。人に迷惑をかける。などなど。コメディタッチに描かれている。
その結果、そこまではいかがなものかという感じで共感を得にくいキャラになっている。もしかしたら笑いを狙ったわけではなく、史実に忠実に描いただけかもしれない。実際にそういう人であったのかもしれないが、物語的には余分な描写である。残念。もう少し共感できる人に描かれていたら印象はだいぶ変わったと思う。
そこがコメディが効きすぎてて配分間違った感が拭えなかった。
しかしこのような事件があったことを世間に訴える貴重な作品である。一見の価値はある。
尚、主演のドイツのコメディアンであるメルテン・カプタンの熱演は確かに素晴らしい。だが、彼女とバディを組む、人道派の弁護士ドッケ氏(アレクサンダー・シェアー)が印象に残る。
実際もこの彼の知見や頑張りが成果を結んだと思うし、本作での描かれ方も主役よりも共感を呼ぶ好印象であった。