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映画感想文「蝶の渡り」独立から27年。誇り高く生きるかつて若者だった彼らを描くジョージア映画
時代は変わる。いつのまにか。
だからある日ふと、気付く。もしかしたら自分が滅びゆくものになっているかもしれないことに。
あなたは時代遅れなのだと悟る。それはとてつもなく心許なく、大変恐ろしい体験だ。
それでも、自分は自分なのだ。
そんな風に見える、主人公コスタの頑なで開き直ったかのような生き方が、清々しかった。
ロシアからの独立に湧き上がり、未来を夢見たジョージア(旧国名グルジア)の若者たち。そんな彼らの27年後を描いた映画。
祖父母の代からの半地下の古いアパートに住む売れない画家のコスタ。いい歳だが、いまだに電気やガスが止められてしまうほどの貧乏暮らしだ。
壁にはランダムに多くの絵がかかり、部屋の片隅にはピアノ。夜な夜な画家やミュージシャンやバレリーナやデザイナーたちが集まる。自由に歌ったり踊ったり、どんちゃん騒ぎする仲間たち。
みんな自由にその部屋から出て行ったり、また舞い戻ってきたりする。きっと彼らにとってその部屋は、秘密基地みたいなもの、そしてサードプレイスなんだろう。
長年くっついたり離れたりの腐れ縁のコスタの恋人ニナもそのひとりだ。
そんな彼らの誇り高き生き様を、華麗に舞う蝶に見立てた物語。といっても、めちゃくちゃ高尚なことや肩に力入ったことが語られるわけではない。ゆるゆると、ひとりひとりのその人らしい生き方が描写されていく。そんな緩さも心地よかった。
滅びゆくもの、新しいもの、それでも変わらない、変えたくない、大切にしたいもの。そんなものについて考えを馳せる。
先日観た「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」に続くジョージア映画。
黒海に面した北海道より小さな小国。19世紀初めにロシアに支配され、1991年に独立。そんなジョージアが、いつか行ってみたい国の一つにランクインした。