映画感想文「パリ・ブレスト」希望がいかに人を駆り立て幸せにするか。舌触り良き映画
どうしようもない母親を持つヤジッド。
育児放棄。約束は守らない。嘘を重ねる。おまけに精神不安定。
典型的な、自分の面倒も見れないのに子供を産んでしまったパターン。親だって完璧ではない。それでもこんな親の元に生まれたら本当に辛い子供時代を過ごすことになるとわかる。ひたすら胸が痛む。
なにしろ、これは実話を元にした映画なのだ。
しかし救いはある。それはひとときの里親の家での家族団欒だ。その家にはパティシエとして働く息子がいる。ヤジッドは彼を兄のように慕い一緒にスイーツを作る。
台所で並んで料理をする。これは極めて親密な行為だ。そうやってヤジッドは疑似家族で人間関係を作っていく。
そして彼は希望を見出す。
彼にとって幸せの象徴であるスイーツで世界一になるのだ。その希望は彼を駆り立てる。
様々な努力を積み重ねる。血の滲むような、と書きたいところだが、それは正確な表現ではない。他人から見たらそうなるかもしれない。でも彼にとっては、その努力は辛さではなくむしろ幸せな時間なことがわかる。
人にとって希望がいかに幸せをもたらすかを余すことなく表現してる物語である。
読後感の良い舌触り良き映画だ。こういう映画は王道で好きだ。