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純喫茶リリー

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「純喫茶リリーへようこそ。 懐かしくてちょっとビターな日常を綴ります
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#昭和時代

20.変な名前? /純喫茶リリー

ママの言うことは絶対。 だから、律子は「今日からもみじ保育園に行け」と言われたら、他の選択肢なんてなかった。 けやき保育園に戻りたかったけれど、それは許されないのだ。 新しい保育園では黄色いかわいい帽子じゃなくて、青くてダサい帽子をかぶることになった。 初日、いきなり知らない子たちの前に立たされ、 「今日からおともだちの “おうろりつこ”ちゃんでーす!」 と紹介された。 みんなの前で突然「おともだち」って言われても、 今日初めて会ったばかりで友達なわけがない。 心の中で「勝

13. 牧野さんとロールスロイス /純喫茶リリー

雨漏りしそうなボロい小さな一軒家。 その家の前には、似つかわしくないロールスロイスがよく停められていた。ぼろ家にロールスロイス。 なかなかのコントラストだ。コントラストが効きすぎている。 リリーの隣の牧野さんの家だ。 牧野さんの家には駐車場がないから、いつも家の前に路上駐車していた。 リリーの建物も牧野さんの家もどちらも小さいから、両方の家に跨って停まっていた。 ある時、テレビでビートたけしのロールスロイスが映った時、あ、あの車だ!と律子は牧野さんの車を思い出していた。

12. 野田夫妻 /純喫茶リリー

夫婦なのに、いつも別々にリリーにやってくる野田のおじさんとおばさん。そして2人とも、毎日朝と夕の1日に2回もリリーに現れる。 雨の日も風の日も雪の日も、おじさんはくすんだ緑色のカブに乗ってやってくる。カブには風除けと、お布団みたいなハンドルカバーがついていて、まるでおじさん専用のデザインのようだった。小柄で地味なおじさんと、そのカブは妙に似合っていた。 おじさんは日曜日になると、競馬を楽しみに来る常連客のために、カブで馬券を買いに行く役を務めていた。 右手の薬指がないのは

11. ジジからの赤い一輪車 /純喫茶リリー

「今日はりっちゃんに、ええもん持ってきたでぇ」 ある朝、リリーにやってきた萩原のジジは、透明のビニール袋に覆われたピカピカの赤い一輪車を抱えていた。 「ええ?一輪車!すごいすごいっ!こんなのもらっていいの?」 律子は目を輝かせ、大喜びした。 この頃、一輪車を持っている子なんてほとんどいなかったのだ。 するとジジは、 「ええやろぉ。今朝、スーパーの裏に散歩に行ったら、落ちとったから拾ってきてやったでぇ。りっちゃん喜ぶと思ってよぉ」 と満足気に言った。 え? 落ちてた