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12. 野田夫妻 /純喫茶リリー
夫婦なのに、いつも別々にリリーにやってくる野田のおじちゃんとおばちゃん。そして2人とも、毎日朝と夕の1日に2回もリリーに現れる。
雨の日も風の日も雪の日も、おじちゃんはくすんだ緑色のカブに乗ってやってくる。カブには風除けと、お布団みたいなハンドルカバーがついていて、まるでおじさん専用のデザインのようだった。小柄で地味なおじちゃんと、そのカブは妙に似合っていた。
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おじちゃんは日曜日になると、競馬を楽しみに来る常連客のために、カブで馬券を買いに行く役を務めていた。
右手の薬指がないのは、仕事中に挟まれて失ってしまったらしい。
おじちゃんはほとんどしゃべらないので、少し怖い印象を持たれていたが、正月になると律子にお年玉をくれるため、律子の中では「いい人」と認定されていた。
おじちゃんのコーヒーの飲み方は一風変わっていて、フレッシュ1杯とティースプーンに5〜6杯の砂糖をいれる。
溶かしきれない量だ。そんじょそこらの甘党じゃない。
だから、おじちゃんが帰った後のカップには、茶色くてドロドロの砂糖の塊が塊が残る。
それを見て律子がおもわず、「うわぁ きたない」というと、
ママが、「戦争の頃に育った人は、甘いものに執着する人が多いんだよ」と言った。
それを聞いてから律子は、砂糖が沈殿したカップを見ても汚いっていうのはやめた。
一方、野田のおばちゃんは、ヒールをコツコツならしながら徒歩でやってくる。
雨の日も風の日も欠かさないが、雪の日は姿を見せない。
ヒールが履けないからだと思う。
おばちゃんは、明るい金髪に真っ赤な口紅、そしてひらひらした赤い服がトレードマークの、派手でよく喋る豪快な女性だ。
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毎朝、おじちゃんがコーヒーを飲み終わる頃にやってきて、別の席に座りモーニングを楽しむ。おじちゃんを見送った後は、パチンコ屋に直行し、パチンコ帰りにまたリリーに立ち寄る。
おばちゃんは、毎日3,000円だけ持っていって、3,000円がなくなるまでパチンコをするそうだ。だから、日によってはすっからかんになって、昼に来たりする。
「余分にもっていくと全部つっこんじゃうからねっ」
と、ドヤ顔で言ってた。
律子はそれを聞いて、毎日3,000円もパチンコに使うなんて、すごいな、金持ちだなと素直に感心していた。
おじちゃんは競馬、おばちゃんはパチンコ。
まさにギャンブル夫妻だ。
野田夫妻には、中学生くらいの息子・しげちゃんがいる。しげちゃんはちょっとヤンキーで、ジャニーズ系のイケメン。笑顔がかわいくて、リリーに来る時は律子に優しく、気弱そうな雰囲気があった。
律子は「なんでおじちゃんとおばちゃんから、こんなかっこいいお兄ちゃんが生まれたんだろう」と不思議に思っていた。
なんともひどいことを思ったものだ。
ママが出前に行き、律子と2人だけの時、野田のおばちゃんが涙ぐみながら、学校の先生と駆け落ちした時の話をしてくれた。
その話と、しげちゃんがガソリンスタンドでシンナーでラリって警察沙汰になった話は、また別の機会に。
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