短歌にふれる 十四首目:軽やかに冷や汗をかかされる歌

このシリーズは、短歌に惹かれはじめた筆者が「あ、いいな…」と思った短歌の、「いいな」を味わってみる試みです。日課にしていきたいので、500〜1000字で。直感は見つめ過ぎたら逃げていく。

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今日は伊舎堂仁さんの歌。ネットで見つけた歌で、『感電しかけた話』という歌集に載っているとのこと。

その町にいればどこからでも見えるでかい時計の狂ってる町

“狂ってる”ことのなにが怖いかって、狂ってるというラベルが貼られるためには、別の文脈に存在する他者が必要ということで。逆に言うと、ひとり残らず狂っていたのなら、それはもはや“正常”に成り下がってしまう。もっと言うと、ひとりだけ“正常”だとしたら、それはもはや、その人が“狂ってる”ことになる。怖い。

その恐怖が軽やかに詰め込まれている歌な気がする。町のどこからでも見えるでっかい時計。それは、その町における権力とも言えてしまう。町民たちは、この時計に支配されている。

そして、その時計は狂っている。狂っていることに気付く町民はだれひとりいないけれど、狂った権力のもとで人々は狂っている。それは正常として機能する。

<正常/狂っている>ってなんなんでしょうね。そんな問いかけが透けて見える。あっけらかんとしているようでいて、「お前が狂ってるんじゃないか」と喉元に突きつけられている気もする。軽やかに冷や汗をかかされる歌。

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安久都智史/とろ火
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