『独立記念日』原田マハ/読書感想文
メンバーシップcafede読書が先日、密かに1周年を迎えました。
そんな節目に選んだ課題図書は、この本。
原田マハ『独立記念日』
様々な立場に置かれた人々の、
独立へ向かう一歩を描いた原田マハさんの短編集。
私自身、新しい挑戦をしようと思っていて、その旅立ちにむけて背中を押してほしくて、この本を選びました。
どの作品も序盤は閉塞感があるものの、そこから解き放たれるあたたかく優しいものでした。
読みやすいです。
毎日1つずつ寝る前に読むと、いい夢が見れそうだし、明日もちょっとだけ頑張るかな〜と思える。
タイトルや、文庫の後ろの要約から期待した通りの作品でした。
ただ、予想に反していたこともありました。
それは、旅立つ物語だけじゃなくて、大切な場所に戻って行く物語がいくつも書かれていること。
そして、私があぁ好きだなと思った作品も、
帰っていく物語でした。
たとえば、『お宿かみわら』。
北海道、道東の森の中にある一日一組のお客様を心を込めてもてなす宿かみわら。
その女将さんが主人公の物語です。
紙みたいに薄い身体の女将さん奈緒と、藁みたいに細い夫の志郎さんは二人で寄り添うように暮らしています。
はじめて道東にやって来たとき、奈緒は森や湖から聞こえる外の物音が怖くて、志郎さんの布団にもぐりこむのです。
私も小学校の頃、怖いテレビを観た後とか、
なんだか外で聞き慣れない音がした後、
自分の部屋のベッドを抜け出して、
父と母の眠る和室の襖を静かに開けて「一緒に寝ていい?」と聞いたことを思い出します。
小声で聞くので、父は全然起きないのですが、母はすぐに気づいてくれて、自分の布団に招き入れてくれました。あのあたたかさ、安心感は、今でも覚えています。たぶん、一生忘れないのだろうな。そして、この小説を重ね合わせずにはいられませんでした。
やがて、主人公の奈緒は、道東という土地にも、女将さんという仕事にも徐々に慣れていって、そんな風に布団にもぐりこむ夜からも遠のきます。
そんな日々のある時、奈緒は妊娠・流産を経験してしまいます。そして体調を崩してしまう。
宿もできず子供も産めず離婚しようかと思っていた奈緒に、志郎さんは「宿を閉めて故郷に帰ろう」と言います。
そして、宿での仕事が最後の夜。
私自身は、
背中を押してほしい、と言いながら、
これまで、今いる場所から旅立つこと自体は、苦も無くやってきた節がありました。ひと所に留まるよりも、どんどん新しいところに出ていきたい気持ちが強い。
かみわらの、志郎さんと少し似ているのかもしれません。志郎さんも、金融工学の専門家を目指して、東京の外資系企業に勤めていたのに、留学先でスノボに目覚めて、スノボエリアを放浪するうちに旅が好きになって、小さな宿を経営するという夢にたどり着いた人。そして今度は、その宿をやめて故郷に帰るのです。
私も、人生で6回くらい住む場所は変わっているし、職場も将来なりたいものも、コロコロ変わっています。
けれど、自分だけで将来を選ぼうとする時、
「帰る」という選択をするのは正直結構難しいです。プライドが邪魔をする。なんだったら、帰る場所があることも忘れていて、もう八方塞がりだって自分を追い詰めてしまったりする。
その時いつも、
「戻ってきたら?」とか、
「いつでも戻ってきていいんだからね」
と言ってくださる人々に救われています。
そうか、自由になるため、いろんな悩みや苦しみから独立するための方法は、旅立つだけでなくて、戻ることもあるんだな。
この物語は、
またそのことを思い出させてくれました。
新しいことに挑戦する、でもいつだって戻ることはできる場所はある。だから安心して、好きなだけ挑戦したらいい。
結局、しっかり背中を押してもらったなと思います。
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