アルムナイを作った人事が次に考えてみるべき「アルムナイ×DAO(ダオ)」
皆さま、DAOってご存じでしょうか?
DXやIT関連の部門の方ならご存じかもしれませんが、Decentralized Autonomous Organization、つまり分散型自律組織のことです。
すごく簡単に言うと、DAOは、主にインターネット上でみんなで決めて運営する組織です。
リーダーがいなくて、みんなが平等に意見を出し合い、主に投票でものごとを決めます。
この記事は、人事部として「アルムナイ×DAOという次世代アルムナイにチャレンジしてみる」ことをお勧めするお話です。
この記事を開いていただき、ありがとうございます。グローネクサス代表の小出です。元デロイトで14年、最終的にはディレクターで多くの大手企業を支援していました。
現在ではグローネクサス代表として、主に大手企業における人材戦略・人材マネジメント策定やワークスタイル変革、リスキリングのお手伝いしています。
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企業アルムナイって実は結構悩ましい
アルムナイって、わかりやすくに言うと会社主導のオフィシャルな同窓会のようなものです。
「企業で人事担当者を務める20代~50代の男女400名に、アルムナイ採用の導入状況を聞いたところ、導入している企業は全体の約3割(28.0%)」(マンパワーグループ調べ、2022年1月)とのことです。
その目的ですが、アルムナイを通じ出戻りなどを狙ったりもします。
企業・個人互いによく知っていることから即戦力かつミスマッチの回避につながりますし、アルムナイそのものが企業ブランドにもつながります。
でもこのアルムナイって、結構難しい側面があるのも事実です。
1. 参加者のエンゲージメントの維持するのが難しい
アルムナイが企業との関係を維持するためには、積極的にコミュニティに参加してもらう必要があります。
ですが、離職者が会社と関わり続ける動機を持ち続けることはなかなか難しいのです。時間が経つとエンゲージメントが低下する傾向があります。
2. 個人情報保護とプライバシーの管理も慎重に
アルムナイネットワークでは、元社員の個人情報が関わるため、プライバシーの管理が重要です。
不適切な情報の共有やセキュリティの問題が発生すると、企業の信用問題につながりますね。
3. リソースの確保も結構必要
アルムナイコミュニティの運営には、専任のスタッフやツールの導入が必要で、コストや人的リソースがかかります。
4. 多様なニーズへ対応しきれるか?
アルムナイのキャリアや生活環境が多様であるため、全員のニーズを満たす運営が難しいことがあります。
メンバーごとに求める情報やサポートが異なるため、画一的なアプローチでは参加者の関心を引き続けるのが難しいです。
5. コスト対効果が見えにくい
アルムナイプログラムの効果(採用コスト削減やブランド強化など)は長期的なもので、短期的なリターンが見えにくいことが課題です。
そのため、リソースを割く価値があるかを判断しにくい場合があります。
こんなアルムナイの課題を、DAOが解決してくれるかもしれない、というお話です。
DAO(分散型自律組織)って何?
中央の管理者やリーダーが存在しない、分散化した組織
前述のとおり、DAOは完全に分散化された組織で、中央の管理者やリーダーが存在しない組織です。
技術(主にブロックチェーン)を使って、自動的にルールが実行される、言い換えるとルールの改ざんや逸脱しようがない仕組みなので、透明で公正な運営ができるのが特徴です。
たとえば、みんなでお金を集めて何かプロジェクトを始めるときに、どう使うかを全員で話し合って決める感じです。
DAOの例:ビデオプラットフォームを運営するJoystreamDAO
JoystreamDAOというDAOがあります。
このDAOはビデオプラットフォームを提供しており、YouTubeのようにユーザーがビデオをアップロードし、コミュニティが管理します。
ここでは、コンテンツ制作者が直接収益を得るための仕組みが用意されており、視聴者の投票やフィードバックに基づいてコンテンツの報酬が決まります。
クリエイターが保有するトークンの数や視聴者が購入するクリエイタートークンの量によって、報酬が変わる仕組みになっています。
視聴者がトークンを購入すると、チャンネルの収益に参加でき、チャンネルの成功に応じて利益を共有することができます。
トークンを多く持っているほど、クリエイターや視聴者はDAO内での影響力や収益の配分を大きく得られる可能性があります。
トークンとはDAOで利用可能なポイントのようなもの
トークンは、DAO(分散型自律組織)の中で使われるデジタルポイントのようなものです。
このトークンを持つことで、DAO内での意思決定に参加したり、報酬を得たりする権利が得られます。
トークンは投票権として使われたり、特定のプロジェクトやコンテンツに投資するために使用されたりします。
簡単に言うと、トークンはそのコミュニティやプラットフォームでの影響力や報酬を得るための鍵です。
ポイントではなくトークン(しるし、証明)と呼称するのは、単に金銭的な価値を持つだけでなく、それそのものが投票権になっていることに起因しているようですね。
アルムナイの課題を解決するDAO
ここまで読んでいただいたときに、「結局DAOとアルムナイってどういう関係があるのさ」と思われたかもしれません。
ですが、同じ企業内組織にいた方々が分散しており、アルムナイそのものがコミュニティ活動に近いため、かなり相性が良いといえます。
例えばですが、
元社員(アルムナイ)がDAOのリファラルプログラムを通じて優秀な候補者を紹介し、採用が決定したら、スマートコントラクトが自動的に報酬を支払う
アルムナイメンバーがプロジェクトを提案し、DAO内の投票で承認されれば、DAOのトレジャリー(資金)から資金を提供する
DAOが主導して、元社員同士のネットワーキングイベントやスキル共有セミナーをオンラインで開催し、その運営はトークンを保有するメンバーによって決定される
アルムナイが新しいスキルを習得できるプロジェクトやトレーニングプログラムを提案・実施し、DAOによって資金やリソースが提供される
なんかが考えられます。
そして、アルムナイをDAOとして運営することで、いくつかの課題を解決し、新たなリターンを得る可能性があります。
1. エンゲージメントの向上
DAOは透明性と分散型の意思決定を特徴とし、アルムナイメンバー全員がガバナンスに参加できるため、参加者の主体性が高まります。
従来の企業主導のアルムナイでは、参加者が受動的になりがちですが、DAOではメンバーが投票や提案を通じて直接運営に関与できるため、エンゲージメントを維持しやすいです。
特に、トークンを使ったインセンティブ制度により、積極的な参加を促すことが可能です。
また、DAO形式の運営により、メンバーが積極的にアイデアを提案し、コミュニティの運営に参加することで、アルムナイコミュニティが自律的に成長する可能性があります。
2. 透明性と公平性の確保
DAOはスマートコントラクト*を通じて自動的にルールを実行し、意思決定プロセスがブロックチェーン上で記録されるため、透明性が保証されます。
従来のアルムナイ運営では、企業側の意思決定が不透明になりがちですが、DAOでは全てのプロセスが公開されるため、参加者の不信感を減らすことができます。
公平で透明な意思決定が行われることで、アルムナイコミュニティ内の信頼が強化され、より積極的なコラボレーションが期待できます。
*スマートコントラクト:スマートコントラクトは、自動的に実行されるプログラムのようなものです。
契約や取引の条件があらかじめ決められていて、条件が満たされると自動的に実行されます。例えば、ある条件が満たされたらお金を送る、というような仕組みです。
これがブロックチェーン上で動作するため、誰かが変更したり、改ざんすることができないという強力な特徴があります。
3. 運営コストの削減
DAOでは、従来のように中央管理者が必要なく、スマートコントラクトによって運営が自動化されます。
これにより、運営スタッフの負担や管理コストが大幅に削減されます。
DAOなら、メンバー全員で運営を分担し、プロジェクトや資金の管理も効率的に行うことが可能です。
4. 多様なニーズへの対応
DAOでは、メンバーが自由にプロジェクトを提案でき、それぞれが興味やスキルに応じて参加できます。
アルムナイのニーズが多様化している中で、全員に画一的なサービスを提供することが難しいという課題を、DAOの柔軟な構造で解決できます。
5. リファラル採用とビジネス機会の拡大
DAOを通じて、アルムナイ同士や企業とのつながりが強化され、リファラル採用のプロセスが自動化・透明化されます。
例えば、推薦者がDAO内のリファラルプログラムに候補者を推薦します。
候補者が採用されると、スマートコントラクトが自動的に報酬(トークン)を推薦者に支払われる、という感じです。
また、DAO形式で運営されるアルムナイコミュニティは、単なるネットワーキング以上の価値を提供し、新たなビジネスパートナーシップや共同プロジェクトの機会を創出する場になります。
企業にとっては、アルムナイを通じた新規事業の提案や投資の機会が増える可能性があります。
アルムナイ×DAOの実例:iU Alumini
大学の同窓コミュニティをDAOで実践するという、日本初の試みが行われています。
iU(東京都墨田区、学長 中村伊知哉、http://www.i-u.ac.jp)は、iUの在学生・第1期卒業生が主体となり、合同会社型DAOの枠組みを利用し、大学DAO「iU DAO」(https://iu-dao.com/lp、合同会社iU DAO)が設立したことをお知らせいたします。iU DAOは、金商法に対する内閣府令の改正により4月22日より解禁される合同会社型DAO(分散型自律組織)で、日本初の合同会社型の大学DAOとなります。
※出典:iU Alumni HPより
組織の意思決定は、メンバーの投票によって行われ、ブロックチェーン上に記録されたルールに従って、投票結果は自動的に実行されるとのことです。
さらに、メンバーの貢献度をトークンで可視化し、努力が適切に報われるようなインセンティブ設計をしているとのことです。
まさに前述したようなアルムナイの課題解決の先進事例ではないでしょうか。
補足:DAOとティール組織の違いって何?
DAOって、ティール組織と何が違うの?とか、プロジェクト型組織のことですよね?とかよく聞かれます。
DAOについて説明しだすとそれだけで1本の記事になりそうなので、補足的に簡単に整理してみます。
DAO(分散型自律組織)って簡単に言うと?
前述のとおり、DAOは主にインターネット上でみんなで決めて運営する組織です。
リーダーがいなくて、みんなが平等に意見を出し合い、主に投票でものごとを決めます。
技術(主にブロックチェーン)を使って、自動的にルールが実行される仕組みなので、透明で公正な運営ができるのが特徴です。
たとえば、みんなでお金を集めて何かプロジェクトを始めるときに、どう使うかを全員で話し合って決める感じです。
ティール組織って簡単に言うと?
ティール組織は、自由で柔軟な働き方ができる会社やチームです。
みんなが自分の判断で動けるので、上司が細かく指示を出すのではなく、自律的に働くことが基本です。
目標も固定されず、状況に応じて変わることを前提としています。
たとえば、小さなグループごとに動いて、好きなように仕事を進めていく会社のイメージです。
つまり違いは?
DAOは、技術を使ってみんなで平等に決める、リーダーのいない組織。
ティール組織は、個々が自由に働き、上司が命令しない、柔軟な会社やチーム。
どちらも、従来の上下関係が強い会社とは違って、みんなで決めて動くという点が共通していますが、DAOは主にインターネットでの運営、ティール組織は実際の会社やチームでの働き方に使われます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
自社でアルムナイやDAO、ティール組織など新たな組織形態検討にあたり、お悩みがある方はお気軽にお問合せくださいませ。
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