八本脚の蝶/二階堂奥歯
noteに読んだ本の感想を投稿する時は、単純に面白かった事に加えて「感じたことを言葉にして残しておきたい」という衝動を伴った読後感を得る事も大事で、それでいうと本書はこんなふうに安易に感想を投稿するべきではない一冊とも言えるかもしれない。
本書の著者、二階堂奥歯さんの圧倒的な知性を前に語る言葉をわたしは持っていないから。
それでも深い感銘を受けた事実と、人生においてたった一度きりしかない初読の体験がとても鮮やかで心揺さぶられるものであった事実を蔑ろにしたくなくて、悪あがきめいて美しくないなと思いながらもこれを書いている。
帯をつけたままだとこんな感じ。
ここに書いてある通り、本書は著者が「自らこの世を去るまでの約2年間の日記」。
呼吸するように綴られる日常と思索の過程を夢中になって読み進めたから、残り頁数が減っていく事も、最後の数か月の言葉が目に見えて破綻していくのも苦しくて切なかった。
本書を読み進めるうちに分かるのは、二階堂さんが読んだ本によって動いた心を思考や行動のきっかけにされている事。
他人の意見の切り貼りでないジェンダー観を構築する事もそうだし、小学生の頃に読んだという『はだしのゲン』を通して得た決意を実行し続けている事もそう。
AIが発達してGoogleの検索能力の精度が向上した現代だからこそ、全く関連性のないものごとを結びつけたり思索のきっかけにしたりといった、発想の飛躍や創造性といった人間ならではの能力に触れられる度に嬉しくなるもので。
的確かつ膨大な引用も含めて二階堂さん自身を構成する要素となっている本書は、それらを絶えず目の当たりにし続ける読書でもあってなんだかすごく発奮できた。
たどり着けると言えるほど思い上がる事は決して出来ないけど、その叡智を目指してみたい。
もっとたくさんいろんな本を読もう。
そういう決意を胸に宿した、濫読の旅の始まりたり得る一冊でした。