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ハッピーな未来を意図的に生み出す大切さ 『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』読書感想文

「それでもなんだ、とにかくな、言葉とか呼称ってのは大切なんだよ。意識しないで使ってるだけで、人間の意識にものすごい影響を与えてるんだよ。たとえばだ、残業って言葉を考えてみろよ。おれの一番嫌いな言葉なんだけど」
「あ、僕もそうです」
三浦が妙に食いついてきた。今までにない共感ぶりだ。

──本兌有・杉ライカ著『オフィスハック』第3話「新人くんの社内調整」より引用
http://www.gentosha.jp/articles/-/10425

たとえば、"後輩に「残業」という言葉を使ってほしくない"として、どう説明しますか?

・「残業」という言葉を使うと、時間内に終わらなかった自分が悪い、というニュアンスが出る (不幸な未来)
・残業ではなく、例えば「過剰労働時間」といった言葉を使えば、残業を強いる環境を直さなければならない、という風になって、状況が改善されるかもしれない (ハッピーな未来)

...なので「残業」という言葉を使わないほうが良い、というのが、冒頭に引用したオフィスハックの香田のセリフです。

不幸な未来と、ハッピーな未来と、「使う言葉を変えて欲しい」という本質的に言っている事はあまり変わりません。ですが、受ける印象は違うと思います。
ハッピーな未来を共有したほうが、どういう未来になるのか興味が一層深まりますし、どうすればそういう未来になるのかのイメージもしやすいと思います。
(実現可能性は別として)

ハッピーな未来を量産する

ここではオフィスハックではなく『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』という本を紹介します。

https://www.diamond.co.jp/book/itemcontents/9784478101292.html

本書は「プレゼン術」と銘打っていますが、プレゼンに限らずひとに物を伝える時には「こうすればハッピーになる」と思わせることが重要だと思います。本書はプレゼンに於いてひとをハッピーにする方法について、説明されています。

本書によると、人が行動する理由は2つ。「○○をすればハッピーになる」そして「○○をしなければ不幸になる」です。そして、この2つは本質的には同一のものであり、「不幸な未来」を裏返せば、「不幸を回避できてハッピーになる」という表現になります。

人は基本的に、ハッピーな未来に向かって行動します。
そして、不幸な未来は、裏を返せばハッピーな言葉で書き換えることができます。「不幸な未来を回避すること」を「ハッピーな未来にすること」で言い換えることで、ハッピーな未来のイメージというのはどんどん意図的に生み出していくことができると思います。

「不幸な未来を回避すること」は、それ単体だと「じゃあどうすればいいの?」となりがちで、アクションに移しづらかったりします。また「不幸さ」を表現するためにネガティブな表現を多く使うことになります。
一方で「ハッピーな未来にすること」は、もちろん明るく前向きな言葉での表現が多くなり、ゴールも明確でアクションしやすいものになります。

人に物を伝え、アクションを引き出すために、ハッピーな未来をたくさん作ることが大切だと思います。

共感型ストーリーと脅迫型ストーリー

似たような話として、本書には「共感型ストーリーと脅迫型ストーリー」があります。例えば「家の鍵を締め忘れると泥棒に入られるかもしれない」が脅迫型ストーリー、「鍵を締め忘れていないか心配になりますよね」が共感型ストーリーです。どちらからでも「オートロックにしましょう」とかいう営業トークに繋げる事ができます。

本書では「プレゼン全体を通して2者のバランスを取ることが大切」とまでしか語られていません。個人的には6:4くらいで共感型ストーリーの方が大切ではないかと思います。やはり人間は未来をハッピーにするよう行動するので、不幸を焚き付ける脅迫型ストーリーをむやみに強く表現するのはアクションを効果的に引き出せないと思います。

ですが、注意してみてみると、脅迫型や共感型のいずれかに偏った言動というのは、世の中に多く溢れています。
いずれも学生時代に経験があるのですが、脅迫型に偏った状況下では周りを不安にしすぎて人があっという間に機能しなくなっていきましたし、共感型に偏ると状況を打破するような強いアクションが生まれず何のためにやっているのか分からない会議とかが延々続いたりしました。
(私は悲観的な性格を意図的に捻じ曲げようと日々意識していて、たぶん客観的に見ると言動が共感型に偏りすぎてる時があります...)

バランスを取るのが大切です。脅迫型ストーリーと共感型ストーリーの、いずれに偏ってもあまり良いことは起こらないと思います。
でも、さじ加減として共感型ストーリーのほうが比重が大きいのではないかと思います。その方が、ハッピーな未来のイメージが厚くなります。

スティーブ・ジョブズの伝説のプレゼン

この本が面白いのは、この本の内容そのものが、この本のプラクティスの実戦になっていることです。読者にプレゼン術を身につけたハッピーな未来を共有することで、良いプレゼンをしよう、というアクションを読者から引き出す本になっています。

本書の冒頭に「プレゼンにおける3つのゴール」のひとつとして、「聴いた人がハッピーになる」が挙げられています。(ほかの2つは本書を読んで下さい)
ハッピーな未来をどれだけ的確に表現できるか、プレゼンでやりがちな失敗等をより効果的な表現に変えていく方法が、本書に説明されています。

個人的には、このプレゼン術が一番うまいのは、ご存知Appleの故スティーブ・ジョブズだと思います(この本の著者はマイクロソフトの優秀社員なのですが...)。

Macbook Airをはじめて発表したとき、彼はなにかが入った封筒を持ってきて、そこからノートPCを取り出してプレゼンをはじめました。「Macbook Airは厚さ20mm以下」という事実ではなく「ノートPCが封筒に入るぐらい薄い」というハッピーなビジョンを見せつけることで、消費者から購入というアクションを強く引き出しました。彼はまた「VAIOだったらこんなに重い」というような不幸な未来の表現も同じプレゼンの中で使っていたそうですが、そういうのは私の頭には一切残っていません。(参考: https://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20080116/1006154/?P=2 )

10年前、Macに興味の無かった私でも、当時あのプレゼン動画には衝撃を受けたのを今でも覚えています。今の私はほとんどWindowsしか使いませんが、あのプレゼンをリスペクトして、ノートPCはWinでもMacでも封筒に入れて持ち歩いています。

彼は天才です。他にもハッピーな未来を表現する方法をたくさん持っています。そして、最もハッピーな未来を最も効果的な方法でプレゼンする事に強いこだわりを持っています。なので、彼のプレゼンは人を惹き付けるのです。
彼のプレゼンへのこだわりは、映画Steve Jobs(マイケル・ファスベンダー主演の2016年版のほう)でも描写されています。

まとめ

・ハッピーな未来を共有することで、人からアクションを引き出す
・共感型ストーリーと脅迫型ストーリーのバランスをとる
・不幸な未来はハッピーな未来で言い換え、ハッピーな未来を印象深く表現する方法を多く持つ

ちなみに,ハル研では企業理念に「お客さまと社員が共にハッピーになる」というものがあるので,面談に呼ばれると最初に,岩田さんがグイッと「ハッピーですか?」と,いきなり言ってくるんですよ

──4Gamer『岩田聡氏 追悼企画 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!特別編』より引用
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20151225009/index_3.html

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