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週末読書メモ87. 『考え続ける力』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

「考える」とは何か?

考え続けている賢人達の頭の中を覗き、「考える」ことを考え直すことができる一冊。


そもそも何かを「考える」ためには、次の問いをよく考える必要があります。
どこから考え始めるのか?
どのように考えを進めるのか?
いつ考えをまとめるか?

いうまでもありませんが、考えるスタート地点がズレていたらどこにも行きつきません。また、考えを進める方法論がないと、いくら時間を使っても思考は前に進みません。そして、時間は有限なので、いつかは考えをまとめないといけませんが、それはいつなのか。

本作の筆者は予防医学研究者の石川義樹さん。医学の分野を越え、「人がよく生きる(Good Life)とは何か」を主軸に、アカデミックからビジネスの場まで活躍させる筆者が、「考える」ことそれ自体に向き合った本となります。


本作は、前著『問い続ける力』に続く、筆者の思考シリーズ本の第2弾。

「考える」ためにも「問う」から向き合った前作に続き、いよいよ「考える」こと自体に焦点を当てた本作。ただ「考える」だけでなく、「考え続ける」ことの結果、いかに創造性・イノベーションを作り出せるかが、両書の真のテーマになります。

本シリーズ最大の特徴は、自分自身の考える賢人である筆者の主張だけでなく、述べ14名ものインタビューが載せられていることです。それも、経営者から研究者、はてはAV監督や一流シェフまで。各人の対談を通し、様々な人・視点からThink Differentのヒントを得られることにあります。

(対談リスト)
『問い続ける力(計9名)』
・長沼伸一郎さん、出口治明さん、御立尚資さん、寺西重郎さん、岩佐文夫さん、若林恵さん、二村ヒトシさん、松嶋啓介さん、松王政浩さん

『考え続ける力(計5名)』
・安宅和人さん、濱口秀司さん、大嶋光昭さん、小泉英明さん、篠田真貴子さん


筆者石川義樹さんの見解の中で特筆すべき内容は、「大局観」という思考法にも焦点を当てたことだと感じます。

まず「発想」ということを、脳科学から考えてみましょう。
発想に使われる脳のネットワークは、三種類あります。それぞれデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)、セイリエンス・ネットワーク(SN)、エグゼクティブ・ネットワーク(EN)と呼ばれていますが、いずれも得意な思考法が異なります。
DMNは「直観」を使って、アイデアの量をとにかく出すときに活性化します。
一方、SNは出たアイデアを三つに絞るようなときに使われます。これは「大局観」と呼ぶべき考え方です。
最後に、絞られた三つを「論理的」にひとつに決める必要があります。ENが活性化するのは、このときです。

大局観を活用したイノベーションには、三段階あると思うようになりました。
普通の人の目には、もう「やり尽くされている」ように思える事象でも、視座の「軸」を変えることで、ステージ1のように「右上空いているな!」と捉えることもできるし、ステージ2のように「うお!三象限がぽっかり空いてるじゃん!」とも捉えることができます。
さらにすごいのはステージ3で、「実は今までやられていたことは点に過ぎなかった」と見抜くことができれば、もう後はイノベーションし放題です。

「論理的」思考の重要性は今や常識になっています。そして、それに対比するように、数年前から「直感」にも注目されるようになりました。しかし、石川さんはその2つの思考法の間には、「大局観」という思考法も存在することを言及します。そして、「大局観」こそ、考え続けた先に創造性を生み出す鍵だと言います。

大局観を活かすことで、普通の人の目には気が付けない空白地帯を捉えることができるようになると。本書の中にある、松尾芭蕉や世阿弥が、いかにThink Differentをしながら、日本や世界の文化にイノベーションを起こしたの論考は、一読の価値があります。


前著と合わせて14名もの対談がある中、個人的に印象深かったのは、安宅和人さん、濱口秀司さんとの内容です。

(安達和人)
生物における学習、理解とは「Learning without goal(目的のない学習)」と言えます。「知覚されたインプット・ドリブン」と捉えてもいいかもしれませんが、何かを知覚した際、二つ以上の知覚できる情報につながり合いが生まれること。これが生物における学習、理解の本質といえます。
これは識別などの目的、たとえばこれが犬かどうかをベースに、パラメーター、変数値を設定していく機械学習とはある種、正反対のアプローチです。そしてこの過程こそが、生命に意味理解を与えている本当の本質です。我々は価値を理解していることのみ知覚でき、知覚は経験から生まれる。それが知的体験であり、人的体験であり、思索の深さです。

論理的思考法の名著『イシューからはじめよ』で有名な安達和人さん。

この本の中での対談では、『イシューからはじめよ』では書けなかった更に深い内容にまで突っ込んでいきます。特に「情報処理のバリューチェーンと知覚の広がり」の図は必見(下URL中にも記載があり)。

思考は「入力→処理→出力」というのは分かっていても、その要素をここまで深く詳細に明らかにしたものは、他では見たことはありません。その要素一つ一つに工夫の余地があり、個人単位・組織単位で、知的生産のテコ入れの示唆に溢れています。


(濱口秀司)
もう少し情緒的に言うと、「おもしろがる力」「おもしろがらせる力」「おもしろくする力」の三つが、これから先に持つべき力だと思います。
まず、何かを見て「おもしろい!」とか、「へぇ、何それ?」といった具合に、キチンと「おもしろい」と感じることが重要です。
二つめは、何かおもしろいことがあったら、人に「おもろいで」と伝えること。「こんな発見があるよ」と、自分が考えたことに人を巻き込む力が重要です。
最後は、おもしろくないものをおもしろく変えたり、バイアスをブレイクしたりみたいなものを自分で発見して、おもしろいものを作っていく力です。

また、知る人ぞ知る現代日本のイノベーターである濱口秀司さん。有名なものだと、USBメモリーの生みの親であること(濱口さんの人柄や思考レベルの雰囲気は、下の対談記事から滲み出ています)。

本書の中でも、創造性・イノベーションを生み出すために必要となる思考のプロセスから日々の所作まで述べられています。学術理論ではなく、自らの経験と思索から導き出した原理原則には、思わず唸ります。


本書でのインタビュー内容は、一般的な大衆向けに優しい説明ではなく、知の賢人同士の対話だからこそ、普段では触れることの出来ないような思考プロセスを覗き見ることが出来ます。その全てを真似することは到底難しいけれども、取り入れたい要素を多く得ることができます。

何かを創り出すためには、歩き続けるように考え続けなければなりません。

けれども、どこから・どのように考えるべきか、という点に立ち帰り、「考える」ことには、進化させる余地があることに気が付ける一冊でした。


【本の抜粋】
「わたしが憧れる創造性とは、却来の境地に達することである」
(中略)「却来とは、ある物事を新しくし、質を高めた後、また古くすること」

創造性=f (Novelty, Quality)
Noveltyというのは「新しさ」、Qualityは「質」です。つまり、私たちは創造性を「新しさ」と「質」という二つの変数によって定義しているのです。

そもそも何かを「考える」ためには、次の問いをよく考える必要があります。
どこから考え始めるのか?
どのように考えを進めるのか?
いつ考えをまとめるか?
いうまでもありませんが、考えるスタート地点がズレていたらどこにも行きつきません。また、考えを進める方法論がないと、いくら時間を使っても思考は前に進みません。そして、時間は有限なので、いつかは考えをまとめないといけませんが、それはいつなのか。

まず「発想」ということを、脳科学から考えてみましょう。
発想に使われる脳のネットワークは、三種類あります。それぞれデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)、セイリエンス・ネットワーク(SN)、エグゼクティブ・ネットワーク(EN)と呼ばれていますが、いずれも得意な思考法が異なります。
DMNは「直観」を使って、アイデアの量をとにかく出すときに活性化します。
一方、SNは出たアイデアを三つに絞るようなときに使われます。これは「大局観」と呼ぶべき考え方です。
最後に、絞られた三つを「論理的」にひとつに決める必要があります。ENが活性化するのは、このときです。

大局観を活用したイノベーションには、三段階あると思うようになりました。
普通の人の目には、もう「やり尽くされている」ように思える事象でも、視座の「軸」を変えることで、ステージ1のように「右上空いているな!」と捉えることもできるし、ステージ2のように「うお!三象限がぽっかり空いてるじゃん!」とも捉えることができます。
さらにすごいのはステージ3で、「実は今までやられていたことは点に過ぎなかった」と見抜くことができれば、もう後はイノベーションし放題です。

芭蕉に私たちが学べることがあるとすると、「まずは質の高さはどうでもいい。一回新しくした後に質を高める。これが日本流のThink Differnetなんじゃないか」ということが言えるわけです。
(中略)世阿弥を知ることで、永遠にアップデートとアップグレードをするという罠から抜けることができる。数百年残るものを創ることができる。この却来の本質を一言でいえば「新しく質を高めたものを、あえて古くせよ」ということになるでしょう。なかなかできることではありません。だからこそ、却来はThink Differentの究極の奥義だと考えています。

(安達和人)
生物における学習、理解とは「Learning without goal(目的のない学習)」と言えます。「知覚されたインプット・ドリブン」と捉えてもいいかもしれませんが、何かを知覚した際、二つ以上の知覚できる情報につながり合いが生まれること。これが生物における学習、理解の本質といえます。
これは識別などの目的、たとえばこれが犬かどうかをベースに、パラメーター、変数値を設定していく機械学習とはある種、正反対のアプローチです。そしてこの過程こそが、生命に意味理解を与えている本当の本質です。我々は価値を理解していることのみ知覚でき、知覚は経験から生まれる。それが知的体験であり、人的体験であり、思索の深さです。

(濱口秀司)
もう少し情緒的に言うと、「おもしろがる力」「おもしろがらせる力」「おもしろくする力」の三つが、これから先に持つべき力だと思います。
まず、何かを見て「おもしろい!」とか、「へぇ、何それ?」といった具合に、キチンと「おもしろい」と感じることが重要です。
二つめは、何かおもしろいことがあったら、人に「おもろいで」と伝えること。「こんな発見があるよ」と、自分が考えたことに人を巻き込む力が重要です。
最後は、おもしろくないものをおもしろく変えたり、バイアスをブレイクしたりみたいなものを自分で発見して、おもしろいものを作っていく力です。

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