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週末読書メモ35. 『二宮金次郎』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

信念ある人間の表と裏の両方が書き上げられています。


多くの小学校に銅像があった人物、二宮金次郎の人生を描いた一冊。

著者は、日本で有数の歴史小説化の童門冬二さん。

この方による『小説 上杉鷹山』の内容が非常に良かったため、本作も高い期待を持って読んでみました(好きな本に挙げられることも多い名作)。

胸に刺さる内容でした。何が良かったかというと、冒頭にもある通り、人間の表と裏の両面を掘り起こしていたことです。


表面としては、二宮金次郎の傑出した業績、そのあり方が書かれています。

勤勉で勤労、農村復興をした人物というイメージが強いですが、その実は、組織の再生人でした。

両親を失った貧しい生家から始まり、地域の他の名家を続き、その実績と評判から、ついには町規模での再生を手がけました。

(その功績の詳細は下の動画で)


彼の抜きん出ていた点は、ソフトとハードの両方から、改革を仕掛け、実現したことです。

「小を積むことによって、大を為せるのだ」
ということは、逆にいえば、いきなり大きなことはできない、成らないということである。
「生家復興も小さなことからはじめよう。目の前の仕事に全精魂をうちこもう」
歩き回るのをやめて、金次郎は家の前に戻り、改めて荒地を見渡しながらそう思った。
「積小為大」
の思想はそれだけではなかった。彼は拾った苗が米を実らせた事実を見て、人の力を越えたなにかが、この世の中に存在していることを知った。それは、
「天地自然の理」
であった。彼はこう考えた。
「天地自然の理がこの世の中にあることは確かだ。しかし、そのままにしておけば、その天地自然の理も生きてこない。この理を生かして、なにかを成し遂げるには、人がそれに努力を咥えなければならない。天地自然の理は、人間が働くという努力を加えることによって、大きく実る。あの捨てられた稲の苗が、米を実らせたことがその証拠だ」

自分が発見した原則と、中国の本から学んだ「入るを量って出ずるを制す」という法則を結びつけて、混合させているうちに、さらにひとつの発見をした。
(中略)それは、「入る」を単に受け身一方の、他動的なものとしてとらえるのではなく、自分の努力によっては、これを増やすことができるという考えだ。「入る」を、固定的なものとしてとらえるのではなく、もっと流動的なものとしてとらえたことだ。つまり「入る」には柔軟性がある。増やすことも減らすことも出来るというとらえ方であった。

上記のような、組織再生・人間再生の原理原則を、地道で愚直な実体験と膨大な読書から会得し、そして、それを再生先の人間達に植え付けます。

また、人間育成を第一に置きつつ、具体的な結果を出す技術を持ち、それを駆使・継承することで、再生先の状況を確実に変えていった手法には、目を見張るものがあります。

このソフトとハードの改善は、正のスパイラルを持っていて、一度が回り始めると、どんどん結果が大きくなっていきます。

加えて、再生人の二宮尊徳が、誰よりもハードワークをしていたので、その結果は弾み車のように回転していたことが想像されます。

毎日朝3~4時起きという笑(本人は苦とも思っていなかっただろうけれど)

以前、五常アンドカンパニーの慎泰俊が言っていたように、この手法は、現代の名経営者、京セラの稲盛和夫さんや日本電産の永守重信の再生手法と、非常に似通っています。古今東西、組織を変えること、突き詰めると人間を変えることの方法は、殆ど変わらないと。


一方で、二宮金次郎の裏面としては、その信念が強すぎる上、周囲、そして自分自身の心を焼き尽くしてしまっていた様子が描かれています。

(みんなが、俺に温かい気持ちを持ってくれていた。それなのに、俺ひとりがなにかそういうものを受け付けないで、一人粋がっていた)
金次郎はいま、素直にそう思う。
(中略)「金次郎さんが一人で突っ張っている」
「金次郎さんは気位が高い」
「金次郎さんは、まるでお侍さんのような気持を持っている」
金次郎は、今、あの日聞こえていなかった村人の声が、改めて遠くから自分の耳に囁かれているような気になった。そして、このことは本当だろうと思った。張りに張った精神状況を続けていた。ピーンと張りつめたはがねのような精神で、あの頃は生きていた。ゆとりやムダなど全く持てなかった。

誰も悪くない、けれど、周りと軋轢を産んでしまう、このやり切れなさ。

誰よりも努力・苦労した人間、誰よりも志の高い人間が陥りがちな、これ。

あああ、既視感がある…

振り返ると、本人の柔軟性の足りなさに起因しているのだけれど、何度か痛い目に合わないと、自分の至らなさに気が付けないんだよな…

本人が一寸の余裕も無いくらい必死だったりするので尚更。

上記のようなハードワークや困難でも屈しない尊徳も、周囲の人々と自分の間に生まれる軋轢や摩擦のどうしようもなさに、心を痛めていたようです。


誰よりも聖人君子のように見える二宮金次郎でさえ、欠点があるのだから、自分も周りも完璧な人間では無いという悟りが、まず必要なのだろうなぁ。それを忘れないだけで、きっと、少しは人間関係が上手くいくはず。


先週の曹操といい、 人間というのは、複合的で複雑な存在であることを、改めて感じます。

結局、突き詰めると、人。

経済も、政治も、社会も、全て人。

この何年かインプット源は実務書や歴史書に集中していたけれど、腰を据えて、人と向き合い直す段階に来ているのかもしれない。


【本の抜粋】
二宮金次郎の復興法は、現在でも「報徳法」と呼ばれ、仕法そのものや、あるいは原理を活用して、日本の各地域に根強く活用されている。金次郎が目指したのは、今でいう「村おこし」「産業おこし」「人おこし」などを柱にするものだ。そのために、「一円融合」「生々発展」「開闢」などが方法論の基本になっている。今風にいえば、一円融合というのは、何事も一人ではなく、力を合わせて行動することであり、生々発展とは、引込み思案をやめて、なんでも進んで改善するための努力をすることだろう。また開闢というのは、人間が、そういうことを可能にするように自己を啓発することであり、変革することである。

二宮金次郎の「推譲の精神」は、何事につけても彼が応用する「水車の論理」にたとえられる。水車というのは、半分は天の意思に従がい、半分は天の意思にさからっていると彼はいう。つまり、水車は、半分は天の意思に従って下降し、半分は天の意思にさからって上昇する。この上昇には、人の力が加えられている。人の力というのは人の道だ。したがって、水車は天道に従って下降し、人道に従って上昇するということになる。この原理は、人間生活のあらゆる部分に現れている。

今までにない自然に対する感謝の気持が金次郎の胸に湧いた。そして、もう一つ発見したことがあった。それは、
「どんなことでも、小さいことからはじめなければいけない」
ということであった。いい方を換えれば、
「どんなことでも、小さいことからはじまる」
ということである。
(中略)金次郎のこと発見は、後に、彼の思想の根幹である、
「積小為大」
に発展する。

(みんなが、俺に温かい気持ちを持ってくれていた。それなのに、俺ひとりがなにかそういうものを受け付けないで、一人粋がっていた)
金次郎はいま、素直にそう思う。
(中略)「金次郎さんが一人で突っ張っている」
「金次郎さんは気位が高い」
「金次郎さんは、まるでお侍さんのような気持を持っている」
金次郎は、今、あの日聞こえていなかった村人の声が、改めて遠くから自分の耳に囁かれているような気になった。そして、このことは本当だろうと思った。張りに張った精神状況を続けていた。ピーンと張りつめたはがねのような精神で、あの頃は生きていた。ゆとりやムダなど全く持てなかった。

「小を積むことによって、大を為せるのだ」
ということは、逆にいえば、いきなり大きなことはできない、成らないということである。
「生家復興も小さなことからはじめよう。目の前の仕事に全精魂をうちこもう」
歩き回るのをやめて、金次郎は家の前に戻り、改めて荒地を見渡しながらそう思った。
「積小為大」
の思想はそれだけではなかった。彼は拾った苗が米を実らせた事実を見て、人の力を越えたなにかが、この世の中に存在していることを知った。それは、
「天地自然の理」
であった。彼はこう考えた。
「天地自然の理がこの世の中にあることは確かだ。しかし、そのままにしておけば、その天地自然の理も生きてこない。この理を生かして、なにかを成し遂げるには、人がそれに努力を咥えなければならない。天地自然の理は、人間が働くという努力を加えることによって、大きく実る。あの捨てられた稲の苗が、米を実らせたことがその証拠だ」

自分が発見した原則と、中国の本から学んだ「入るを量って出ずるを制す」という法則を結びつけて、混合させているうちに、さらにひとつの発見をした。
(中略)それは、「入る」を単に受け身一方の、他動的なものとしてとらえるのではなく、自分の努力によっては、これを増やすことができるという考えだ。「入る」を、固定的なものとしてとらえるのではなく、もっと流動的なものとしてとらえたことだ。つまり「入る」には柔軟性がある。増やすことも減らすことも出来るというとらえ方であった。

「なんじの道は以徳報徳に似たり」
といった。
以後、金次郎はこの大久保忠真の言葉を大切にして、「報徳」という言葉を使いはじめた。金次郎が四十五歳の時のことである。

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