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経営者は社会の孤独な放浪者


「誰にも相談できない中小企業のお金トラブル解決大全」


古山喜章
大学卒業後、兵庫県の中堅食品メーカーに入社。主に管理部門のキーマンとして活躍、さまざまな経営改革や制度導入にたずさわる。2005年、経営コンサルタント井上和弘氏が率いる、株式会社アイ・シー・オー コンサルティングに参画。また、日本経営合理化協会主催「後継社長塾」の副塾長を務め、後継者から〈どんなことでも相談できる頼りになる講師〉として人気を博している。





序文


今回読んだ本はお金にまつわるあれこれ。
経営者の仕事の1つでもある資金繰りや資産運用。会社を運営していく中で、必ずやらなくてはならない仕事の1つです。

しかしながら、これは経営者にしか対処が出来ません。
通常の業務のように、部課やチームで問題解決にあたることは出来ません。
自分で決定し結果を出さなければなりません。


そんな孤独な経営者の一助になるような本となっております。


銀行のあれこれ


この章では中小企業にはつきものの銀行での借り入れや返済について書かれていました。
その中でも衝撃的であったのがこれです。


今や個人保証も担保もいらない時代であることを認識する


えー、人様にお金借りるのにそんなノーリスクで宜しいんですか!?
上手い話には裏がある、祖母の顔が顔面を横切ります。


弊社もそうですが、恐らく多くの中小企業が保証や担保を元手に借入金を算出されていることと思います。

実はこれ、少し前に金融庁が保証や担保に頼らず融資をしなさいとお達しを出したそう。
その理由は、経営破綻した経営者一族が返しきれない負債に追われ一家離散や自殺者を多く生み出す温床となっていると指摘したことからでした。


それでも銀行員によっては当然のようにこういった保証を要求してきます。
彼らも行内でのノルマや成績があるからです。
当然、無保証で貸付を行うよりも保証ありの方が評価されます。


世の中は知らなきゃ損なことで盛りだくさんですね。
とはいえ、銀行もすべてのリスクを背負えるわけではありません。やはりスコアリングの悪い企業には保証が絶対となります。


例えば、
・2年連続で減価償却前の経常利益が赤字
・債務超過


上記いづれかに当てはまる場合、個人保証が必要と言われても仕方ありません。


令和5年より、個人保証を取る場合は金融庁への理由説明が義務化されました。
こうした背景の中で、我々も本当に融資が必要なのか、それを返せるか。自社の銀行スコアリングはどんなものか、判断をしておく必要があるのです。


取締役会


日本の法律上、取締役会設置会社は最低3カ月に1回以上の頻度で開催しなければならないと規定されており、取締役人数も最低3名選出しなければなりません。


一方、取締役非設置会社は少人数で経営権を回せて、意思決定も早く取締役会開催の義務もありません。

そこで多くの中小企業に取締役会を設置せず、会社の意思決定を少人数制でスピーディーに下すスタイルが定着したのです。


しかしながら、これにはデメリットも存在します。

まず、取締役会非設置会社の場合、銀行の評価が変わります。
それは恐らくですが、意思決定が個人で行われていることのリスクにフォーカスされるからだと私は思います。

やはり、人間は判断を誤るものです。そこに他者の評価基準が介入してるか否かはリスクマネジメントにおいては重要と捉えているのかと思います。


また、トラブルが起きた際、取締役会で複数名の判断に基づき意思決定がされたこと、それを裏付ける議事録がないといった場合はリスクが生じます。

多額の借入金、高額設備投資、役員退職金、大型契約。
これらすべては前進へも後退へも繋がるストラテジーです。


仮に後退の一途を辿った場合、議事録での意思決定が見受けられなければ各機関に対して説明も証明も出来ず、また個人に責任追及がなされてしまうこともあります。
ここは弊社としても難しい話ではありますが、今後考えていく必要がありそうです。


種類株式


一般的に株式とは普通株式を指します。
普通株式とはすべての株の権利内容が同一で平等に設定されているものです。


実は株式にはもう一つ異なるものが存在します。
それが種類株式です。


種類株式とは、配当や議決権などの特典が付与ないしは制限されたりと、各株に権利内容が盛り込まれているものを指します。


メリットとしては、第3者への譲渡を制限したり、議決権を制限出来たりと、自社を守る手立てを発行株に直接付与できる点にあります。
そんな種類株は内容に応じて下記9つに分類されています。

・余剰金の配当
・残余財産の分配
・議決権の制限
・譲渡制限
・取得請求権
・取得条項
・全部取得条項
・拒否権
・役員選任権


本書では、一部株主の株が第3者にわたる可能性を危惧された企業が、全株式を種類株式に変更し、取得条項によって株式分散の自体に陥る際にはすべての株式を会社が相続税評価額に基づき買い取るとし、対処したケースが記載されてます。


経営者は、会社の乗っ取りや意思決定権の剥奪は何としてでも防ぐ必要があります。
こうしたことを知っておくことで、その危機を回避することができるやもしれません。


地獄の沙汰も金次第


地獄の沙汰も金次第。
どんな困難な壁にぶち当たろうと、世の中金があれば解決できる。

本書では2つの事例を基に、お金の威力について言及されてました。


一つ目は分散した株の買戻し。
親族間で自社株を持ち合うことはよくあることです。
しかし時が経てば、それらは後継者へ相続されていきどんどん実経営層から遠ざかっていきます。

買戻しを図った経営者が用意したのは現金。
書面での提示と現物を見せるのとではやはり威力が違うようです。


また、ある経営者は隠し子への相続で悩まれていたそうです。
自身の幕引きの際、親族に迷惑をかけたくない。そこで隠し子に対しては現金を用意して相続放棄をするよう提案したそうです。


人間は現物をみることで想像力を膨らませます。
また交渉においては相手に時間を与えないことも重要です。
すぐにサインするのであれば現金で支払う、と申し立てれば相手は余裕をなくし飛びつくでしょう。


しかしながら、そんな大金を現金ですぐに用意するのは非常に困難です。
ですので、経営者はこういった有事の際の為に役員報酬をしっかりともらっておくことを推奨されています。

また、会社への貸付金を持っておくことも一つの方法です。
自己資産として資金を持っていても、それを現金化できなければ意味がありません。
多額の引き落としとなると、使途について詳細説明を求められてしまいます。
そんな時、会社への貸付金の回収という名目であれば現金化のハードルは一気に下がります。


また、経営者借入金という項目であれば銀行のスコアリングが下がることもありません。
なぜなら、経営者からの借入金は資本制借入金と見なされ、出資金と同じ扱いとなるからです。


跋文


世の中にはうまく世渡りをするためのコツや制度が沢山存在しています。
我々を守るための制度です、使わないほうがおかしいのです。


お金にまつわる話は誰でもかれでも話せる内容ではありません。
多くの経営者がこういった話を抱えながら日々悩み自問しています。

世の中に転がる正解を探しながら、あてもなく彷徨い続ける。
歩き続けるための強靭な情報受信力を備えていたいものです。




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