変な本屋

駅前に新しい本屋ができたので入ってみた。
ふかふかの椅子に座って、本を読んでいる人がいる。
よく見ると、名札を付けている。なんと、書店員さんだった。

商店街の古本屋なら、店主がのんびりしていても、構わないだろう。
だが、ここは大型書店だ。数年前に閉店し、買い取られてリニューアルされたのだ。

すでにお客さんは何人もいたが、それを不思議に思っている方はいないようだ。
しばらく観察していると、常連さんらしい人が書店員さんに話しかけた。
読んでいた本を見せ合いながら、楽しく会話しているらしい。
私は、他の読書している書店員を探し、話しかけてみた。

「あの、何を読んでますか?」
「ん? ああ、これは『百年の孤独』ですね。今、半分くらいまで読んでます。」
「なぜ、これを読んでるんですか?」
「この文章を読んでみて。日常生活では異常なことが、平然と書かれてるでしょう。」
「あ、本当だ。変な感じです。」
「これがずっと続いて、あれよあれよと状況が変わっていくんですね。」
「へえ。面白そう。」
「そうでしょう。」

そんな感じで会話が弾み、そのまま購入することに決めた。
見回して、会計をする場所を探してみる。
しかし、それらしい人がいない。
見かねたさっきの方が、教えてくれた。

「奥に無人レジがあります。本を重ねて置くだけだから、楽になりましたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「終わったら、左の壁側に行ってみて下さい。カバーをかけられますよ。」
「はい!」

確かに会計はすぐに終わった。
さて、カバーをかける。
言われた方に行くと、それっぽい機械があった。
もしかしてと思いながら、
「1冊の本を、枠の中に置いてください。」
という指示に従い、置いてみる。

カシャン!カシャカシャ!

本は自動でカバーに覆われた。
どうやら、複数のカメラで本を撮影し、表紙の大きさやページとの隙間を感知しているらしい。
レジで「カバーをかけますか?」と言うのも、言われるのもさらにめんどくなった。

そういえば、本の補充をしている人を見かけない。
また、なぜか聞いてみようかなと思っていると、
壁がスッと開いて、何かが出てきた。

ロボットだった。
腕が8本。足の代わりにローラーが付いている。
背は2メートルほど。頭のモニターには、観音様のお顔が映っている。
まさに千手観音。いや、八手観音か。
2本の手で、本の入った箱を持っている。
もう2本は、何かふわっとしたものをつまんでいた。

観音ロボは、本棚の間に進む。
すると、本を複雑に入れ始めた。
左の棚には、左手2本。右の棚には、右手2本。
それぞれがぶつかることなく、自然に収めていく。

「あれは全て、AIによって制御されています。本の位置や順番は、いつも違いますからね。その場で解析しなきゃいけないんです。」
「あらら。また、説明をありがとうございます。」
「お気に入りの本を買ってくれましたから。私も、あの動きを見るのが好きなんですよ。」

いつのまにか、彼は本を入れ終わったらしい。
180度回転して、壁の方へ向かう。

「そうそう。彼はなんで、ふわっとしたものを持ってるか、知ってますか?」
「ホコリを取るためかなと。」
「はずれです。もっと重要な役割がありまして。もうそろそろだと思いますよ。」

ニャーニャー

鳴き声の方を見ると、3匹のネコが居た。
「のらネコで、よく入ってくるんです。見ててくださいね。」

鳴き声に気づいたらしい観音ロボが、入口に向かう。
ネコの前に立つと、ふわふわしたものを、6つの手に分けて持った。
そして、互い違いにゆっくりと動かし始めた。
ネコたちは、ジャンプして我先にと、ふんわりを取ろうとする。

いつのまにか、店内の人が集まって、それを眺めている。
みんなが観音様みたいに笑顔だ。
ほっこりとした時間の流れる、変な本屋さんだった。


参考

『百年の孤独』

『物語論 基礎と応用』(8章 叙述のスピードと文体)


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