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無料連載小説|紬 6話 精神科病院

四葉病院の院長と理事長を前に、俺は応接室のソファで善人を演じている。

「桐山先生みたいな好青年が来てくれたら、入院患者さんが押しかけるかもしれませんね」
「とんでもない。でもたくさんの患者さんが来てくれたら嬉しいですね。失礼ながら医科の入院患者さんというのは口腔内の衛生状態が悪い方が多いですから、やり甲斐があります」

嘘だ。患者なんて来ない方が楽でいい。だが二人はうなずいている。

「それでは、先生のご希望通り八月から勤務していただきたい。いかがでしょうか?」
「ぜひお願いします。ありがとうございます」

笑顔を作り一礼すると、二人もにこやかにしてくれていた。1000万、こんなに簡単に手に入るんだな。

見学して回った限り、精神科病院にはおどろおどろしい印象はなかった。レンガの壁でできた巨大な建物で、看板や玄関が病院らしい作りをしている他は古いリゾートホテルみたいだった。病棟も静かなものだ。確かに患者の中には何らかの疾患を持っているのだろうと見て分かる人もいるが、病気と思えない人が多い。高給の理由はイメージのせいで人が集まらないからと二人が言っていたが、来てみれば都だ。七月にしっかり女を漁った後には、この郊外にある病院に勤めながらどう遊ぶかゆっくり考えなければならない。

刹那的に生きることの何が悪いのだろうか。そう思っていた。だがその刹那の積み重ねの中で、色々と失っていくものがあると知った。この手で紬の頭を撫でること、手を繋ぐことさえ汚らわしく思う。だからできるだけ笑顔を作るようにしている。紬への贖罪だ。

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