無料連載小説|紬 10話 ベランダ
閉鎖病棟には共用のベランダがある。雨の音を聞くのは好きだったから、一日のほとんどをそこで過ごした。七月に入って蒸し暑かったけど、季節を感じられるということも嬉しい。保護室に四季はないから。
ベランダに来るメンバーはほとんど固定だ。みんな同じ病気なのだろうか。見た目は普通の人のようだ。私は最年少なんだと思う。失礼かも知れないけど、私も将来入退院を繰り返し、ここにいる人たちみたいに自然に病院で暮らす人生になるんだろうと思うと暗い気持ちになる。
ただ入院患者さんたちは明るい。私は女性病棟にいるので、女だけの会話で盛り上がっている。特にお母さんくらいの年齢の人には可愛がられる。
「紬ちゃん、可愛いよね。モテるでしょ?」
辛い質問だ。確かにモテた。私の体目当ての男たちに。
あんな風になる前に奈月に出会えてたら、奈月に捨てられることにこんなに怯えなくてよかったかも知れない。嫌われるかも知れないっていう気持ちが和らいだかも知れない。頭が破裂しそうになる。
異性について聞かれることは苦手だ。口から刃物を喉の奥に押し入れられているような感じがする。頓服の薬をもらいに走るが、この気持ちに効いた薬はない。