【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第14話 スマホがない
ひとしきり笑ったガキは、長崎に辿り着いた時とは全く違う、子供の顔を見せ始めた。俺クラスのスネイクになれば、奈良の大仏を笑わせることだって容易い。本番がやってきた。ゲーム中毒のガキを更生させなければならない。最終的には女をいとも簡単に落とせるドンファンに仕立て上げる。
ここでまた、俺は事態の深刻さに気付いた。ツイッターは部屋で一人、何かをボソボソ呟けば立派なツイートだから誤魔化せると言った。インスタの代わりにデジカメか何かで撮った写真を現像し、写真屋さんに売っているアルバムに挟めばいいと言った。そしてtiktok。撮っている瞬間から辛いとは思うが、一人で自分の動画を撮っていればいいと言った。踊っていればいいと思っていた。しかしこれでは拡散力がないにも程がある。もっとも仮に拡散されてバズれば、こいつは社会的に死ぬ。
そのメインのサービスよりメッセージの機能だ。女を落とそうにもこれでは文通しか手段がない。とりあえず隣の席の女に手紙を書いてみてはどうかとガキに尋ねたが、晒されるだけだと言われた。どうせお前はスマホを持ってないんだから、晒されてるかどうか確認できないじゃないか。人の輪に参加しているようなことを言ってはいけない。不登校であることも併せて、登場人物にすらなっていないことに気付いた方がいい。多分死んでも誰も墓参りに来ない。すまない、言いすぎた。死んだとしても誰も気づかないだろう。場合によってはババアも二、三日気付かないかもしれない。ガキが絶望のスメルを醸し出し始めた。その鬱屈とした様はロックスターであるカート・コバーンさながらだったが、こんな魅力のないガキがウジウジしていても誰も見向きもしないだろう。俺も興味がもてない。
ガキは気付いてしまった。スマホがない人間には人権がないということに。誰とも人と意思の疎通を図ることもできず、ハローと話しかけることもできない寂しい人生を歩まざるを得ないということに。スマホを手に入れるのがスタートだ。俺たちの心は通じ合った。どこに書いていいかわからないので無理やりここに書くが、ハローと話しかけることができても、夫婦仲が悪いババアはいつも寂しそうに三時間のビデオ通話を夜の十一時半から始める。スマホを手に入れても幸せになるまでの道のりは長い。最後まで面倒を見てやろう。理由は簡単だ。さっきの笑顔が忘れられないからだ。