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無料連載小説|紬 27話 指輪
指輪が欲しいとねだった日、私は「がぼーる」とかいうブランドの直営店に連れていかれた。カメラを忘れたと後悔している私のトートバッグの中には携帯電話がレンズを上下に揺らしながら収まっている。この時の私は家に帰ってまた後悔することに気づいていなかった。大体今時カメラを持ち歩く女の子がいるだろうか?私だって普段は携帯電話で写真を撮る。なんで奈月さんの写真はカメラで撮るものと思い込んでいたんだろうか?
「紬、どれがいい?」
ショーケースの中には色んなスカルのアクセサリーが並んでいる。私は奈月さんと似ているシンプルなものを探した。しかしその途中で、指輪の1つの値札がめくれて金額がわかるものがあった。
『12万9千円』
高い!歯医者さんってお金持ちだと思うけど、まだそんな間柄じゃないのに!体?奈月さんも?もういい。指輪なんていらない。
「奈月さん、抱いていいですよ」
ウォレットチェーンを手に取っていた奈月さんの動きが止まった。
「お金もいりません。好きにしてください」
奈月さんはとぼけた顔をしている。本心は分かってます。
「どうした?歯医者にはよくわからないが、頓服とか飲むか?」
頓服のお薬、奈月さんに飲ませて眠らせようかな。きっと2、3日起きれないから。
「初デートですよ?!高すぎます!!」
点が線になった顔。上手ですね。さすが女たらし。でもまた笑ってる。意外と優しく。だけど顔はすぐに曇った。そして初めて奈月が私にすがりついた。そんな表現が適切な表情で言葉をかけられた。
「俺はお前を抱かないし、この薄汚れた手で触れたくもない。それくらいの分別はついてる」
奈月の顔に後悔の色が浮かぶ。涙が似合う顔。奈月の顔に似合わない顔。二度と奈月にそんな顔をさせたくない。