【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第20話 友達
友達と呼べる人が何人いるだろうかと考える人は多いと思う。俺は一人だ。環境が変われば考え方も変わる。よくある話だが、減っていった末になんとか一人残った。ガキが先生について考えるのをやめたようなので、次は友達について考えていこうと思う。
大人になって気付いたことは、友達を作りやすい環境に行くためには、自分が自然に収まるレベルの場、学校を進路として選ぶと良いという事だ。学校を選ぶにしても、無理を重ねて進学校に入ると成績が伸びずに落ちこぼれる。進学校の落ちこぼれなんて相手にされないから、辛い目を見るリスクは高くなる。それならそこそこの高校や大学に進み、同じくらいの連中がいた方が分かり合えるというものだ。しかしこのガキは中学生だ。学校を選べる立場ではない。さらにコミュニケーションツールも文通しかない男だ。鎖国男。引きこもりフランシスコ。フォートナイト・ザビエル。三つ渾名をつけたら泣き出しそうな顔になったので慎んだ。
友達作りには部活が妥当だろう。このガキは卓球部らしい。卓球で汗を流し、友達を作る。どうも地味だ。しかし地味な部活にも、女がいたら華やかになるかもしれない。それもただ眺めるだけではない女。恋人が必要だ。俺はこのガキが奥手であるという面倒な習性を把握しているので、マイルドに話を持ちかけた。
「女の卓球部員と恋人になれ」
ガキがため息をつく。こんなに分かりやすい方法になんて反応をするんだ。だから友達ができないんだ。俺が恋人の作り方を伝授してやる。しかしガキは一向に興味を示さない。俺はきつく言ってやった。お前のとこのババアを見習え。下手したらケンタに手を出す女だ。あいつは昔、自分は男が悦ぶ体をしていると言ってたらしい。ケンタなんて簡単にババアの奴隷だ。ブルブルの鞭にイチコロになる。お前もピン球転がしてないで女を転がせよ。ラケット振ってたら人生棒に振る。
ピン球より女を転がす。ラケットを振っていたら人生を棒に振る。我ながらうまいと思う。ガキも震えている。そこまで響いたんだなと尋ねると、顔を真っ赤にして答えた。
「普通それ言うか?」
どれだ。
心が通じ合っていると話が早い。ガキによると、女子卓球部と男子卓球部は違うフロアで練習しているらしい。だから女子と仲良くなるなんてとてもできないとぼやいている。簡単なことでぼやく男だ。ピン球を転がして女を転がせばいいだけなのに。
どうせ友達のいない不登校児だ。何をやってもよく分からない人として片付けられるだろうし、最悪不登校を続けていれば悪い情報は入らない。まずは何か試してみないと始まらないじゃないか。簡単だ。女がいるフロアに行って、一番可愛い女の子に向けてピン球を転がすんだ。拾ってくれる心優しき少女であれば毎日継続しよう。継続は力なり。一日一回だ。もちろん返ってきたら笑顔でありがとうと言わなければいけない。そして最後に、部屋を出る前に振り返ってその子を一度見て頭を下げろ。できれば好きな女がいいが、とりあえず何でもいい。ババアを見習え。