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ハイライト

大学生の時に、年下の子と東京⇆福岡間の遠距離恋愛をしていたことがあった。

美大を目指している絵が好きな女の子だった。当時カリスマ的人気だった椎名林檎が好きな子で、彼女と同じハイライトを吸っていた。

しょっちゅう電話をして、手紙を送りあったりもしていた。けど、当時お金もなかったし、会えるのは長期の休みのときくらいだった。

ある日、大学から帰宅したタイミングで、彼女から電話があった。手紙が今日届いているはずだから、見に行って、と言われ、エントランスの集合ポストまで降りていった。

確かに彼女からの手紙が入っていた。部屋に持って帰って開いた。中には、彼女が書いた落書きチックな、4コママンガが入っていた。

その内容は…ある男性の自宅に手紙が届く。差出人は遠距離恋愛をしていて、ずっと会えていない彼女。男性は喜びつつも、彼女に会いたいなーと思う。そのとき、玄関がピンポーンと、鳴る。そこでマンガは終わる。

なんだこれ?と思い読みながら、あれ?この手紙、切手とか貼ってなくないか?と思った。

そのとき僕の部屋の玄関も、ピンポーンと、鳴った。企みに成功した彼女が、満面の笑みで立っていた。

とても幼い恋愛だったし、最後は傷つけあって終わった。すごく昔の話だし、忘れてることの方が圧倒的に多いのだろうけど、その日の思い出については、わりかし解像度が高い。遠距離恋愛だったけど、僕の東京時代の恋愛のハイライトかもしれない。



この前、書店でなんとはなしに手にとった本を、ペラペラとめくっていて、最後のスタッフクレジットで手が止まった。デザイナーと企画として、その人の名前が載っていた。

別れた後はほぼ音信不通だったけど、10年くらい前に、SNSで友達申請が来て、少しだけだがチャットで近況をやりとりをしたことはあった。結婚して、苗字が変わっていた。

けど、間も無く「SNSだけど、元気そうな姿を知れてよかった!けど今繋がっているのは違う気がしたので、解除するね!」とメッセージが届いて、そっちが申請してきたのに、勝手なやつだな、と笑った。良くも悪くも、そういう人だった。

それ以来連絡はなく、こちらからすることもなく、思い出すことさえ、ほぼなく。

けど、本屋でたまたまとった本で名前を見つけて、不思議と、じわりと、嬉しかった。

そしてあの日僕の部屋の玄関に立っていたときの表情を、少しの時間だけ思い出した。

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