【続編】精神科救急医療実録2 第11話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?

 今回は、続編として精神科救急医療実録2第11話を、お伝えできればと思います。

疑惑

 その後、数日ほどして施設長から連絡があります。
 「少し相談したいことがあるんですが...」
 と、どことなく元気のない様子でした。

 私は、そのまま施設長の話に耳を傾けました。
 「実は、職員にAさんへの対応の仕方を伝えている時に、ある職員の行動が問題となりまして」
 「ある行動?」

 施設長の話しを整理すると
 施設長が職員にAさんの対応を伝えている時、職員から大田(仮名)君のAさんへの対応がおかしいとの意見があったそうです。

 最初は、距離感が近い、文通のやり取りを報告なしでしている、といったものでしたが、"早朝に2人でいるのを見かけた"と、言う職員が複数人いました。

 そこで施設長は、個別に太田君にAさんと早朝に何をしているのか聞いたそうですが、太田君は
 「世間話をしていたり、相談を受けたり、してました」
 と答えたそうです。

 そのため、施設長はそれ以上話を聞けませんでした。

 しかし、職員の報告のなかには、
 "早朝に施設外から2人で歩いて来るのを見た"
 と、言うものまであったので、施設長は不審に思い、Aさんに話しを聞いてみることにした。

退院前訪問指導

 施設長はAさんに
 「たまに太田君と散歩でもしてるの?」
 と聞いたそうです。

 Aさんは少し動揺した様子で
 「してない」
 と、答えたそうですが、明らかに様子がおかしかったそうです。

 しかし、それ以上話しを聞くことができず、私に話しを聞いて欲しいという内容の相談でした。

 電話を終えると、主治医に事の経緯を報告し、精神科訪問看護の許可を貰うと、施設面談の手続上の準備を整えて、訪問の日程を調整しました。

準備

 私は施設長から連絡があった日の夕方に施設を訪問しました。

 事務室で施設長を見つけると、挨拶を交わし、Aさんの様子を尋ねます。

 Aさんは施設長との面談後も特に変わりはなく、日中は就労継続支援に通所して、いまは夕食の最中とのことでした。

 私は、施設長に
 「夕薬後に自室で面談しましょう」
 と伝えて、面談の進め方を打ち合わせしました。

 今回はAさんの居室で面談を実施するので、圧迫感の無い様に面談は私一人で実施することになりました。

 居室のドアは少し空けて、廊下に施設長と女性職員に待機してもらい、他の利用者に話しが聞かれないように配慮しました。

 Aさんには、施設長が外にいることを伝え、理由を
 「私は施設の人間ではないので、立ち会わなければいけないのを外で待ってもらっている」
 と、伝えました。

面談

 「うち、何かした?」
 Aさんは、緊張していいました。
 「ほら、Aさん施設に遊びにきてって言ってたから、先生の許可を貰ってきたんだよ」
 「ふーん、ならいいけど」
 「施設での生活は楽しく送れてる?」
 「うん、楽しいよ、みんな優しいし」
 「そっか、ならよかった」
 と、話しを始めました。

 それから私は、Aさんと20~30分ほど、施設の生活のこと、生産活動のこと、職員や利用者のこと、買い物に行った時の話など、とりとめのない話をしました。

 次第にAさんの緊張もほぐれてきたので
 「先生と話してて、少し不思議に思ったことがあってね。この前通院した時に、"朝早くに職員さんといつも一緒だった"って言っていたけど、夜はぐっすり眠れてない?」
 「そんなことないよ」
 「そうか、ならよかった。Aさんは早起きなんだね」
 「そうでもないよ」
 「朝は職員さんと何して過ごすの?」
 「今はしてない」
 Aさんは明らかに不機嫌そうになりました。

 「今はしてないんだね。よかった、あまり職員さんを一人占めしてしまうと職員さんも困っちゃうと思うから」
 「よくない」
 「よくない?」
 「よくなんてない」
 「何がよくないの?」
 「...」
 Aさんは、そのまま下を向いて黙ってしまいました。

 「実はね、この前の通院の時に話しを聞いて、先生と心配してたんだよ。施設で楽しく生活できてるかなって。困ってないかなって。何か困っていることがあれば、先生や私から施設の人に伝えたり、お願いしたりすることもできるから、一人で抱え込まないで大丈夫だよって、先生が伝えてって言ってた」
 「うち、結婚できるかな」
 「結婚?」
 「結婚したいんだけど、力になってくれる?」

発覚

 私は思わず、
 「どういうこと?」
 と、聞いてしまいました。
 「どうせわかってるんでしょ?」
 「いや、わからないけど...」

 Aさんが話してくれた内容は、私の想像を超えるものでした。

 私はせいぜい、Aさんのお気に入りの職員がいて、その職員もAさんに引きずられ、少し行き過ぎた対応をしている、と言った状況を想定していました。

 しかし、Aさんの話によれば、Aさんと大田君は結婚の約束をしていると言うのです。

 そのため、
 "結婚するために力になって欲しい"
 と、言ったのです。

 精神科救急医療実録2 第12話へ続く

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたらと思います。

 

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