精神科救急医療実録1.5 死に魅入られていたあの頃 通勤途中に起きた事故
今回は、本編ではないのですが精神科救急医療1.5として、通勤時に起きた事故の話しを伝えできればと思います。
死に魅入られた生活
いま思い返すと、精神科病院で働いていた頃は、とても死というものが身近にありました。
神経・精神科領域を離れた後も、在宅診療を複数立ち上げたりと医療機関のターンアラウンドに従事してきましたが、あの頃ほど死との距離が近かったことはありませんでした。
この話は、精神科救急医療中の話ではないですが、神経・精神科領域で働いて頃の、忘れられない事故でした。
帰宅
その日は、救急当番日を終えて、有給を取得していたため、車で帰宅した日の出来事でした。
いつもは電車で通勤していましたが、この日は私用もあり、前日に車で出勤していました。
救急当番の勤務を終えると、車に乗り込み、片側2車線の環状線を自宅に向かって運転していました。
信号
しばらく車を走らせていると、右折専用車線も含んで3車線になる交差点に差し掛かります。
その時、私は追い越し車線を走行していました。
交差点付近に差し掛かると、信号が青から黄色になります。
私は減速して、停止線の手前で停止しました。
乾いた音
車を停止させると、左側の走行車線から1台の車が交差点に進入するのが、左側の視界に入りました。
同時に対向車線から音を立てて、右折車線を走行してくるバイクが目に入りました。
パリン
カシャン
ガシャン
静寂のなか、乾いた音だけが鮮明に聞こえました。
奇妙な感覚
しばらく、何が起きたか分かりませんでした。
交差点を越えた走行車線に、黒い軽四自動車が停車するのを何気なく見つめていました。
平日の午前中だったのにもかかわらず、奇妙な静けさに包まれていました。
停車した車から、人が降りると、交差点の左奥にあるカーブの縁石に駆け寄ります。
その光景を見て、車と右折してきたバイクが衝突したことに気付きました。
事故
あぁ、事故ってしまったんだなと思い、縁石に駆け寄る人を見ると、人が横たわっているのが視認できました。
私は、マズイな、と思い、左右を見て車が来てないことを確認すると、クラクションを鳴らしながら交差点に進入し、交差点を越すと、走行車線に止まっている車の前に停車しました。
車を停め、バックミラーで安全を確認し、車を降りると交差点の縁石に向います。
救命措置
縁石の上には、黒いヘルメットを被っている男性が、車道に半分身体を投げ出された形で横たわっていました。
このままでは危険だと判断し、倒れている男性の傍に立ち尽くしている男性に声を掛けます。
「あそこまで動かすので手伝って下さい」
「は、はい」
私は、倒れている男性の頭部をあまり動かさないように、後ろから抱えると車道から歩行者専用道路上に移動させました。
移動させ、確認すると、明らかに呼吸困難を起こしています。
一緒に移動させた男性が電話を取り出していたので、
「救急車を呼んでください」
と、伝えます。
「どっちが先ですか」
「先に救急要請をして、警察に電話して下さい」
「他に掛ける所はありますか」
「保険に入っているなら、そこにも電話して下さい」
会話をしながら、横たわっている男性を見ると、肩で苦しそうに呼吸をしています。
「大丈夫ですか、大丈夫ですか」
声かけをするが、反応はありません。
喉を鳴らしているので、よく見ると、口元から血が漏れているのに気が付きました。
喉に血が詰まってないか、横たわる男性の口元に手を添えると
「危ない、噛まれるぞ」
と、いつの間にか集まってきたなかで、年配の男性が叫びます。
私は、横たわる男性の顎を横に向けました。
半開きの口から大量の血液が流れ落ちます。
喉に詰まってはいけないと、口から血液をかき出しました。
息は次第に弱くなっていきます。
体勢を回復体位に変えながら
「大丈夫ですか、大丈夫ですか」
と、声かけを続けます。
救急車
声かけを続けていると、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきました。
しばらくして、救急車が到着し、救急隊が駆け寄ってきました。
私は救急隊と交代すると、状況を説明し、連絡先を伝えました。
なぜか、近くにあるのか、幼稚園の園児たちの遊んでいる声が鮮明に響いていました。
最後に
翌日、事故が気になっていた私は、スマホで事故の記事を検索します。
事故の起きた場所と日付を入力し検索すると、事故の記事が発見できました。
記事を確認すると、バイクを運転していた男性は、お亡くなりになっていました。
この事故で亡くなられた男性の冥福を心からお祈りいたします。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたら幸いです。
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