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【続編】精神科救急医療実録2 第12話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?
今回は、続編として精神科救急医療実録2第12話を、お伝えできればと思います。
困惑
Aさんから、
"結婚するために力になって欲しい"
と、言われて少し頭が混乱します。
とにかく、状況を把握しなければいけません。
私はAさんに
「順を追って説明してくれる?」
と、伝えました。
本来、医療・福祉業界では職業倫理上、治療や援助者が患者や要援助者に対して恋愛感情を抱くのはタブーとされていますが、不法行為として明確な規定が存在するわけではありません。
整形外科の看護師が、交通事故で入院した男性患者と結婚するなどよくある話です。
単に、批判や非難をするのではなく、状況をしっかりと確認する必要があると感じました。
二人が幸せになる方法があるのであれば、それはそれで悪いことではないのではないか、とも思いました。
Aさん
Aさんは16歳の女性です。
衝動的に自宅から飛び降りたため、脊髄損傷から歩行困難や尿意や便意を感じない状態で、常時オムツを着用していました。
歩行補助器や装身具を用いて生活しており、少しの歩行でも"足が痛い"と訴え、時には痛みで泣いていたことを覚えています。
確認をしたわけではありませんが、妊娠や出産もできない状態だと考えられました。
Aさんはアイドルが好きで、入院していた時は好きなアイドルの話や、恋愛、結婚の話を聞きながら、憧れがあるのだなと感じていました。
一方で、不穏な時には
「こんな身体で誰が好きになってくれるの」
「こんな身体では一生、結婚できない」
「こんな身体でどうやって生活するの」
などの悲観的な訴えも、しばしば認められました。
人懐っこく、愛嬌があり、誰とでも仲良くなれる子でしたが、容姿は良いとは言えませんでした。
病棟の看護師に
「ねずみ男みたい」
と、言われたことに腹を立てていましたが、言い得て妙でした。
※これらの表現は使用を迷いましたが、記事への理解を深めてもらうため、敢えて使いました
私は当時、Aさんの話を聞きながら、
"なんとか、いい相手に巡り合えないものか"
などと思ったりもしていました。
大田君
大田君は21歳の男性です。
高校を中退後、プロボクサーを目指してジムに通いながら、フリーターとして職を転々としてきました。
朝のランニングの時に施設を見つけ、職員を募集していることを知り、働くことになりました。
夜はジムでトレーニングがあるため、早朝勤務か夜勤希望を希望していたそうです。
私も何度か接したことがありましたが、口数は少ないですが、礼儀正しく、真面目そうな印象でした。
容姿は坊主でしたが、目鼻立ちの整った端正な顔立ちをしていました。
親は行政書士事務所を開業しており、次男だったと記憶しています。
想い
この様な状況から、仮に二人の関係が職業倫理上許されないものであったとしても、本当に想いあっているのであれば、邪魔をする理由もないのではないかなと感じました。
幸い、太田君は医療・福祉関係の資格を有している訳ではありません。
最悪、施設の仕事を辞めなくてはならなくなるかもしれませんが、あとは当人と、その家族の問題であるとも言えます。
私は、できるだけ正確に状況を把握し、それらを関係者にちゃんと伝えることが大切だと思い、Aさんの話を聞きました。
経緯
Aさんの話では、
朝早く起床した日に、大田君が食堂で掃除をしていたので、Aさんから話しかけたのがきっかけだったそうです。
Aさんは太田君がボクシングをしているのを知ると、
「すごい」
「カッコいい」
と言い、シャドーボクシングを観たいと、せがんだそうです。
大田君はそれに答え、シャドーボクシングをみせたり、ボクシングの話しをAさんにするようになりました。
そんな日が数日続き、Aさんは太田君を散歩に誘いました。
そして、早朝に近所を散歩してコンビニに行き、施設に帰る途中で花を摘んでくれたそうです。
それから、太田君は毎日の様に早朝、Aさんの居室を訪れる様になりました。
面談の交代
私は、Aさんから大田君との話しを一通り聞くと、Aさんに断って一旦、退室しました。
大筋の内容は把握できましたが、こちらから質問をする内容が性的な面を含むものもあるので、施設の女性職員に代わって貰いました。
私は、最低限質問して欲しい内容を書き留めると、面談を施設の女性職員に任せ、部屋の外で待機する施設長と終わるのを待ちました。
しばらくして女性職員は、険しい顔でAさんの居室から出てきました。私は入れ替わりにAさんの居室に入ると
「話してくれて、ありがとう。一人で抱え込んでるのは辛かったね」
と、伝えました。
「結婚できるんだよね」
Aさんは、懇願するように縋り付いてきました。
「私一人で判断できることではないし、色々と確認したり、相談したりしなければいけないから、今は何とも言えないけど、Aさんの気持ちはちゃんとわかったよ」
「力になってくれるんだよね」
「いつでも、みんな、Aさんの味方だよ」
私が、力になるということの難しさ、曖昧さ、不確実さ、を知るのはこの後のことでした。
精神科救急医療実録2 第13話へ続く
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたらと思います。
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