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【続編】精神科救急医療実録2 第9話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?

 今回は、続編として精神科救急医療実録2第9話を、お伝えできればと思います。

施設での生活

 Aさんが施設に入所してから数日で関係者会議を開催しました。

 入所後の生活の動向を確認するのと、今後の支援方針を定めていくのが狙いです。

 Aさんは入所後、職員への依存傾向は認められましたが、希死念慮や自殺企図は認められず、穏やかに生活していました。

 関係者会議も終始穏やかに進み、今後の支援方針として、就労継続支援を活用しつつ、本人の意欲や能力の程度により就労移行支援も視野に入れて支援していくことになりました。

 就労継続支援は、障害者が継続して生産活動に携わる機会を提供している日中活動の福祉サービスを指します。

 Aさんは、入所施設の法人が運営している就労継続支援B型施設に通所することになりました。

就労継続支援

 Aさんが通所する就労継続支援の事業所は入所施設から徒歩5分程のところにあり、関連施設で夜間・早朝と日中活動を包括的に支援していました。

 私は、今後も施設入所や通所で連携する可能性があったので、関係者会議が終わると施設長に施設の見学依頼をしました。

 施設長は快諾し、施設の案内をしてくれました。

 就労継続支援の事業所ではパンを焼いて販売しており、施設職員と利用者が楽しそうに生産活動をしています。

 私はその光景を見ながら、
 「職員さんは若い方が多いんですね」
 と感じたことを施設長に尋ねました。
 「代表の方針で、教育しやすい、若くて未経験者を積極的に採用しているんです」
 「何か理由があるんですか?」
 「私も詳しくは知りませんが、なまじ福祉の知識があると組織として綻びがでる、とかトラブルを起こす、とかが理由みたいです」

 私は疑問をそのまま質問しました
 「経験者の方はいないんですか?」
 「いますよ。70代の看護師ですが。施設のサービス管理責任者をしています」

 私はこの時、
 "専門職者が要らないなんて変わっているな"
 と、思いましたが、看護師が配置されているなら大丈夫かな、とも思いました。

予兆

 Aさんが施設に入所してから10日ほどが経ち、施設長から連絡があります。

 電話の内容は、
 "Aさんが夜間に希死念慮を訴え、自殺企図を図った”
 とのことでした。

 施設長は、Aさんの緊急通院と、今後の相談をしたいとのことで、Aさんを伴って来院しました。

 私は主治医に事の経緯を伝えると、Aさんの診察の同席を指示されました。

受診

 Aさんは診察室に入室するなり、元気な声で
「先生、お兄さん、元気だった~?」
 と、何事もなかったかのように言い
「うち、施設の人に迷惑かけちゃったー。追い出されるかな」
 と、心配そうに首を傾げました。

 話しを聞くと、施設の職員さんとの歳も近く、楽しく生活しているとのことでした。

 主治医と私は、希死念慮と自殺企図が認められたのは
 "何かあったからか"
 と、尋ねます。

 「うちと仲の良い職員さんがさ、新しい人が入ってきたら全然かまってくれなくなって...」

 「朝、早くさ、いつも一緒だったのに、それもなくなって...」

 などと、話してくれました。

医療相談

 Aさんの診察は、処方の変更もなく支持的精神療法のみで、問題なく終わりました。

 診察室からAさんを伴って退出すると、看護師にAさんの対応をお願いして、施設長の方に向かいます。

 「Aさんは、看護師にお願いしたので、今後の対応について話しましょうか」
 と、施設長に声をかけ医療相談室に向かいました。

 この時、私はAさんの診察時に抱いた疑問を施設長にぶつけてみようと思いました。

 施設長は入室するなり、
 「Aさんの言動に職員が驚いてしまいまして、入院の検討をして頂けないでしょうか?」
 と、聞いてきました。

 施設長の話しを整理すると、
 ① 昨夜23時頃、職員に「死にたいと訴える」
 ② 施設の職員が夜間の見回りのため、後で話しを聞くから自室で待つように伝える
 ③ 職員が見回りでAさんの部屋にいくと、ハンガーで首を吊っているのを発見
 ④ 職員が行為を止めようとすると、大声で泣き叫ぶ
 ⑤ 隣室の入所者が110番通報し警察が介入
 と、いった状況でした。

 警察が介入してからAさんは落ち着きを取り戻したそうですが、朝の4時頃まで対応が必要だったとのことです。

 私は、改めてAさんの疾病特性を伝えましたが、施設運営に支障がない対応方法は思いつかなかったため、主治医に入院可否の判断を仰ぎに、一旦、医療相談室を離席しました。

受入相談

 私は、診察の合間を見計らって主治医に尋ねました。
 「先生、Aさんが入所している施設の職員が入院できないかと相談を受けたんですが」
 「ん-、私は良いんだけど、病棟がね...」
 「確かにそうですね。入所してから2週間も経ってないですし...」
 「病棟も休ませてあげたいしね」
 「そうですね。施設の方は私の方で対応しておきます」
 そう主治医に伝えると、私は医療相談室に戻りながら病院経営上の打算をして、自分自身を納得させました。

 当時の精神科病院では、入院1~90日まで段階的な初期加算があり、再入院の場合は3ヶ月以上経過しないと算定できないという基準が定められていました。

 私は当時、長期入院患者の退院促進をする中心メンバーであったため、これらを念頭に置きながら当該病院の利益拡大を図っていました。

 その様な打算で自分を納得させず、入院判断を変えていたら、これから解明される事件の被害で、Aさんの命を奪ってしまうことまでには至らなかったかもしれません。

 精神科救急医療実録2 第10話へ続く

少し長編になってしまったので雑談

 思いのほか、精神科救急医療実録2は長編になってしまいました。

 実は精神科救急医療実録1のほうが支援に要した時間は長く、2と同じように記事にしていたら、もっと長編になっていたと思います。

 1は匿名性を担保するためにlightに書いてしまいましたが、2は少し詳しく書いてしまいました。

 その背景には、
 「あなたは自殺を心から止めれますか」
 というテーマを持たせてしまったので、丁寧に記事にしなければいけないとの心理的作用が働いたのかもしれません。

 ただ、次回で10話ということもあり、読んで頂いている方が飽きていないか心配です。

 私自身、他にも記事にしたいことが沢山ありますが、この記事を蔑ろにするのは、大変心苦しいため、皆様にもお付き合い頂いている次第です。

 大変申し訳ございません。

 当時のことを思い出しながら記事にしていると、支援のターニングポイントが沢山あり、当時の私が未熟だったとはいえ、私の判断や周囲への働き方を変えていたら、違った結果となっていたかもしれないと改めて痛感しました。

 あと、5話ほど続くかと思いますが、お付き合い頂けますと幸いです。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたら幸いです。

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