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自由律俳句 #200

【沁みて痛くて傷に気付く】


手や体を洗っている時に、
水や泡が沁みて、
初めてそこに「傷」があることに気付く。

いつの時のだろうと思い返す。

あの時のだろうかと思うものもあれば、
全く見当が付かないものもある。

沁みて痛まなければ、
この「傷」に気付くことはなかっただろう。

気付きにくい傷がある。

目を閉じると、
冷たい涙が溜まっている器を見つけた。
ここに「心」を沈めてみた。

ここも、そこも、
痛み出す。
涙が冷たいせいだろうか。
涙がしょっぱいせいだろうか。

傷口は、
思っていたよりも多いのか。
それとも、
気付かないふりをしていただけか。

目を閉じて、傷口を見つめ続けた。
傷口に涙が沁みていく。
そうすると、
「傷」が「記憶」に変わっていった。

そうか、
「記憶」に変化したのなら、
あとは忘れてしまえばいい。

良い案だと思ったが、
うまく忘れられるだろうかと、
心配になった。

目を閉じたまま、考えていると、
温かい涙が溜まっている器を見つけた。

ここに「記憶」を沈めてみた。
温かいからか、
溶けてなくなるように「記憶」は消えた。

そうか、
温かい涙、これで忘れられる。

温かい涙を両手ですくってみると、
嬉しかったとき、
楽しかったとき、
幸せだったときの、
涙を思い出した。

私は、
冷たい涙の器に沈んでいる「記憶」を、
いくつか取り出して、
温かい涙の器に移した。

溶けて、消えて、
もう見えないのに
なぜだか、
それを見つめ続けていた。


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小島涼太郎
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