連載小説「1万7000回『こんにちは』を言い続けてきた」 連載4日目
これは在宅医療に挑んだ1人の青年の『こんにちは』の軌跡。
踠き、苦しみ、それでも目の前の人々と全力で向き合った、ノンフィクション小説です。
*山口本人を除き全て仮名としています。
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4回目
午前の回診が終わり、正直もうそれでクタクタ。でもここで終わらない。午後からは薬剤師による単独での訪問をする。皆さんのところへ行き、薬の効果や副作用を確認するためだ。
「山口くん、じゃあ午後もがんばろうか。」
「はい!よろしくお願いします!」
午前はまったく何もわからず、自分の無力さに打ちのめされたが、午後は気持ちを切り替えていこう。
「じゃあ、1人ずつ回っていくから、付いてきてね。」
「はい!」
施設に着くなり近藤先輩はおられる方々に話しかけていく。
「玉木さん、こんにちは。おかげんはどうですか?」
「あぁ、いつもどうりよ。ありがとぅ。」
「脈拍見させてくださいね。」
玉木さんは80歳代の女性。車椅子に座ってテレビを見ていた。
「脈拍も問題ないし、大丈夫ですね。」
「よかったゎ!いつもご苦労様。ありがとう。」
「こちらこそ。では失礼します。」
「安藤さんこんにちは。今日のおかげんはいかがですか?」
「もぉ全然だめよぉ!」
「え?どうしたの?」
「ここのごはん美味しくない!」
「お口に合わないんですねぇ」
「ほんと、料理の基本がなってないゎ!」
「そうなんですねぇ。胸の聴診しますね」
「はい、お願い」
先輩は次から次へとみなさんに話しかけていき、脈拍や肺音などのバイタルサインを確認していく。
その様子を見て1つの疑問が浮かぶ。
「じゃあみんなの訪問終わったから帰ろうか。何か質問とかある?」
「はい、1ついいでしょうか?先輩は血圧は測らないんですか?」
「測らないなぁ。」
「それは何故ですか?」
「ここにいてはる方々は、看護師さんが定期的に血圧測定をしてくれている。そのデータを見せてもらえるから、自分では測らないよ。」
「なるほどぉ!確かにそうですよね。薬剤師で全部やる必要はないですよね。」
「うん、山口くんが言う通りそうだと思うよ」
直前に血圧測定の手技講習を受けていたため、もっと積極的に血圧測定を取っていると思っていた。しかし、先輩は取らなかった。看護師から情報を得ることができるものは、わざわざ取ったりしない。
血圧測定は簡単ではあるけど、けっこう腕が締め付けられて痛い。測定させる人にとって、負担が多少はある。それを薬剤師の都合だけで実施せず、連係で情報共有できるなら、それを利用する。
相手のことを考えた先輩の発想に感動した。
「じゃあ、来週またここに来るから、誰かの訪問をしてみようか?」
「はい!よろしくお願いします!」
ついに自分が前に立つときがきた!
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