連載小説「1万7000回『こんにちは』を言い続けてきた」 連載1日目
これは在宅医療に挑んだ1人の青年の『こんにちは』の軌跡。
踠き、苦しみ、それでも目の前の人々と全力で向き合った、ノンフィクション小説です。
*山口本人を除き全て仮名としています。
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拝啓
これを手に取ってくれた全ての方々へ。
今あなたの置かれている状況はどのようなものでしょうか。仕事に邁進する日々、子育てに追われる日々、新しい環境に不安の日々、これからのことを考える日々。様々あるでしょう。
これを私が書き始めているのは2020年6月。あと3ヶ月で転職を控えるときです。新卒入社して4年間務めた会社を辞める。次の挑戦を始めるときに、ふとこの4年間を振り返ってみた。その日々は、何も特別なことはなく、1人の青年が過ごしたただの4年間。
しかし、それでも全力だった日々。振り返った4年間は、特別さはないけれど、確かなことがあった。1人の青年が、医療に挑み、一人一人の命に向き合い、そして『こんにちは』を言い続けてきた。それは間違いのないことで、私の誇りだ。
1万7000回の『こんにちは』を言い続け、そしてそこには1万7000回『こんにちは』を返してくれた人々がいる。ここに記すのはそんな『こんにちは』の軌跡。1人の青年が過ごした、『こんにちは』の日々。
これを手に取った人が、これを読むことで、何を得られるかはわからない。ただ、1つだけ伝えたいことは、『歩こう』ということ。1万7000回の『こんにちは』は、この青年の歩み。
何かを感じ取ってもらえるのであれば、それは、『歩み』であれば、私はこの上なく嬉しく思う。
敬具
2020年6月吉日
0回目
「入社おめでとう!」
太く強い声が部屋に響く。そこにいるのは新卒入社を迎えた若者15人と、それを迎える会社役員たち。
「それでは、新入社員代表挨拶をお願いします。山口竜太先生」
「はい」
1人の青年が席を立ち前に出る。小柄な青年は、髪は短く眼鏡をしている。前に立ち緊張を隠そうとするが、足は震え、手は用意した原稿を上手く広げられない。
「本日は私たち新入社員のためにこのような会を開催して頂き、誠にありがとうございます。また私からも新入社員の皆様、ご入社おめでとうございます。」
少し低めの、はっきり通る声で青年は挨拶を始めた。早口なところに、緊張が現れている。
5分間ほどの挨拶を終え、青年は席に戻り、大役を終えたことにホッとする。
今ここに医療人としての一歩が踏み出された。期待と不安そして挑戦の日々の始まりだ。
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