エンドレスサマー

8月31日、夏が終わる、ただそれだけのこと。

強い日差し、じめっぽい暑さ、蝉の声、風鈴の音。

君とした花火、君と夜に見た青い海、1度も食べれなかったかき氷、天から見下ろすうろこ雲。

「線香花火を先に落とした方の言うことを聞く」だなんて、他愛のない会話で盛り上がる。いつも負けるのは僕で、勝ち誇った顔で、ドヤ顔を決めてくるのが君の癖だった。

帰り道、君と一緒に見たお月様。「月が綺麗だね」って、その言葉の意味も知らぬ君が言う。隣で1人で舞い上がる僕に、気づかない君がいた。

すっかり焼けた君の鎖骨。君の美しい横顔に、つい見惚れる自分がいたことに君が気づく。目が合った瞬間に、なにもなかったかのように振る舞うのが僕の悪い癖だった。

同じ空を同じ場所で見上げる2人に、「この幸せがずっと続きますように」とそっと星に祈りを込める。流れる星に込めた思いを、七夕の短冊にも込めたいうのはここだけの話。

気の抜けた甘ったるいだけのサイダーに、「中身のない甘いだけの自分と同じだね」って、自分を重ねたりして感傷に浸る夏。

サイダーを一気に飲み干す君が、いつもより頼りがいのある人に思えた。「自分がもっとしっかりすべきだよな」って、少し泣きたくなる夜。強くなくても良いから、せめて隣にいる人の笑顔だけは守り抜きたいだなんて本気でそう思ったりしてる。

守りたいもの、大切なものはそれほど多くはないし、世界を変えたいという野望すらもない。隣にいる人の笑顔を守る、ただそれだけで、自分の人生が素敵なものに思えてしまう。

君がいた夏、また終わっていく夏。夏が終わる、ただそれだけのこと。

これからあと何度、君と一緒に夏を過ごせるのだろうか。

夏が終わる、ただそれだけのこと。また来年も同じ夏がやってくるのに、夏の終わりの静けさには、感傷に浸りたくなるなにかがある。

楽しかった思い出、泣きたくなる悲しいできごと。そのどれもが愛すべき事象で、なかったことにはできない事象。

夏が終わるそのたびに、なにかを失っていくような感覚。

一刻一刻とすぎていく時間の流れに、徐々に失われていく残された時間。

あれだけ嫌いだった夏が、君という花が加わるだけで、ほんの少しだけ恋しくなる。

「夏よ、永遠に終わらないで」と少しだけ思ってしまう8月31日の夜。

無残にも祈りは届かず、波音がまた少し、また少しと僕らの時間をさらっていく。

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