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「他人に他人は救えない」と知った日

「私、どこに行っても問題を起こしてしまうんですよね」

とある女性からこんな相談を受けた。彼女は極度のネガティブで、じぶんを悲観的にしか捉えれない性質を持っている。ネガティブに生きるよりもポジティブに生きたほうが生きやすい。とはいえ、簡単にポジティブにはなれない。容易いと思えば容易いが、難しいと思えば、難しい。人間なんてそんなもんだ。

彼女の話を聞くと、どうやら職場で人間関係がうまくいっていないそうだ。そして、勤務態度が悪いとお客さんからクレームが来ているとのこと。それに加えて、じぶんはこんなに頑張っているのに、問題を起こしてしまう。そんなじぶんに嫌気が差している。でも、なにから手をつければいいかわからない。

そして、彼女は半年前に最愛の恋人に振られ、いまだに引きずり続けている。そして、ネガティブな感情のまま働いているそうだ。些細なことでイライラし、それを顔にすぐに出してしまう。こんな感じの相談内容だった。

彼女は学校を卒業してから就職をしたものの、上司からパワハラを受け、退職に追い込まれ、現在は別の場所で働いている。問題が起きるのは本人だけの問題ではないのかもしれない。でも、本人の非がないなんてことはないし、問題意識を持っているのは素敵なことだなと思った。

まずは一緒に目標を決めることにした。目標は当人にメリットのあるものしか意味がない。こちらが一方的に目標を決めるのではなく、ヒアリングを繰り返し、相手にメリットのある目標を一緒に考え、相手に納得感を持たせる。これが目標決定のセオリーだ。でも、彼女には目標がなかった。切り口を変え、「どんな人間になりたくないですか」と最悪の想定から考えることにした。

「何歳になってもいまのままは嫌です。あと職場の嫌いな人みたいな人間にはなりたくない」

「じゃあなりたくない像を実現しないために、どうすればいいかを一緒に考えましょう」

再就職をすること。職場の嫌いな人みたいな人間にはならないこと。2つの取り決めを彼女が決め、「これで頑張れそうです」と彼女は少しだけ前を向いていた。

「勤務態度が悪い」と言われていたため、上司の方に「彼女の勤務態度がよかったら褒めてあげてください」と根回しをした。すると、彼女の勤務態度はとてもよくなったそうだ。じぶんで決めた目標を持った人間はやはり強い。

「この前上司から褒められたんです」と話す彼女はとてもいきいきしていた。人間が変わる瞬間を見るのはやはり嬉しいものだ。でも、彼女と話をしていると、職場の人間関係は改善している人もいれば、ほぼ絶縁状態になってしまった人もいるそうだ。

これはまずいと思って、職場の上司に話を聞くと、「イライラがすぐ顔に出る」、「新人や後輩に対して、怖い」という意見が出ているそうだ。どんな働き方なのかを見るために、職場にも彼女の働きぶりを見に行った。

たしかに彼女は怖かった。新人に対しての当たりが強い。これではいけないと感じ、「○○さんは周りから怖いと思われているそうです。でも、勤務態度が良くなっているという声も聞きました。いきなりすべてを変えるのは難しいです。だから一歩ずつ前に進みましょう。そして、一歩前に進むために、まずはどうづれば人間関係がうまくいくかを一緒に考えましょう」と素直に伝えた。

新人に対しては「なんでこんなこともできないの?」と思ってしまうそうで、怒りに身を任せ、新人の仕事をつい巻き取ってしまう。新人から怖いと思われるのも無理はない。そして、新人は成長しないし、同じ失敗を繰り返し、苛々が募る状態をなんども繰り返してしまう。この負の連鎖を断ち切るためには、彼女はどうすればいいのかを必死に考えた。

そこで「○○さんが新人のときはどんな感じでしたか?」と質問してみた。

「周りに迷惑をかけてばかりでした。でも、先輩に仕事を教えてもらったので、少しずつできるようになった」と返信が返ってきた。だから「新人さんも最初は迷惑をかけてしまうんです。それはどこに行っても同じで、○○さんもそうだった。だから、先輩が教える。そうやって少しずつ成長していくんですよ」と伝えた。

すると、前向きに受け取ってくれたのか「そうですよね。初心を忘れていたので、頑張って教えてみようと思います」と返ってきた。

数日がたったある日、「ほとんど会話のなかった人と少し話せるようになった」と彼女が言っていた。関係性が少しでも良くなって良かった。そして、彼女が前向きになっていることがなによりも嬉しかった。

なにがきっかけかは忘れたけれど、幸せについて話す機会があった。ちなみに僕は、幸せのハードルが低いほうがいいと思っている人間だ。でも、彼女は幸せがなんなのかがわからないと答える。彼女に「最近なにかいいことはありましたか?」と彼女に質問をぶつけると、「なんにもないですね」と返信が返ってきた。

そんなはずはないと思いながら、質問の切り口を変え、「この1週間でしたことを教えてください」と聞いてみた。

「奈良と京都に写真を撮りに行きました。あとはパンが好きなので、パン屋さんを何軒か巡って、好きなパンを買って家で食べました」

彼女の返答に、「あれ?いいことだらけじゃん」と心の中でつっこんでしまったけれど、直接は伝えなかった。彼女は人への期待値が高ければ、じぶんへの期待値も高い。好きなことをしていても、幸せではないと感じてしまう。好きなことが幸せだと感じられないのは、相当まずいと素直に思ってしまった。

またしても問題が起きる。また人間関係で揉めてしまったそうだ。彼女の話を聞いているうちに、こちらもだんだんと疲れてきた。彼女はネガティブが強すぎるのだ。ついネガティブに引っ張られそうになる。これはまずいと思って、彼女を諦めようとも考えた。でも、その度に良心が勝ってきた。

なんども話し合いを繰り返してきたけれど、また同じ問題を起こしてしまう。でも、変わっている部分もある。それは事実だ。その繰り返しの中で、少しでも彼女が良い方向に変わればいいとずっと願っていた。

3ヶ月が経ち、彼女は少し前に進んだかと思ったら、また後退している。そして、持ち前のネガティブが発揮し、いいことがすべて無に帰す。この繰り返しを生きている彼女は、生きづらさを感じているだろうなと思った。

話し合いでどれだけ前を向いてもすぐに折れてしまう。彼女の口癖は「でも、だって」だった。これはネガティブな人に多い言葉だ。他人に他人は救えない。変わるチャンスが目の前にあったしても、変われるかどうかはその人次第だ。そして、最後はじぶんで変わらなきゃいけない。

彼女と話をするたびに、彼女のネガティブに引っ張られそうになる。彼女にとってはいい薬なのかもしれないけれど、こちら側にはなんのメリットもない。人間関係にメリット、デメリットを持ってくるのは好きではないけれど、時間に対しての見返りが、マイナスで返ってくるこの関係性は、どう考えてもじぶんのためにはなっていないと気づいた。

彼女は僕にはもはや手に負えない。彼女の頑張りに応えたいとは思う一方で、僕には彼女を救うことはできないと気づいた。絶望の底から前を向こうと考えている人のお手伝いをしたいとは思う。でも、じぶんの身を削ってまでやるべきではない。だから、僕は彼女を諦めてしまった。

僕はじぶんを守るために身を引いた。これ以上は無理だった。支援は場合によっては、依存になりかねない。そして、人を変えるチャンスを与えることができても、変わるかどうかはその人次第だ。

他人に他人は救えない。人は無力だ。

綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、彼女の幸せをずっと願っている。だから、せめてもの救いとして、「どうか自身の足で前に進めますように」と祈り続けると心に決めた。

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サトウリョウタ@毎日更新の人
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