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さて、明日笑えるだろうか

毎日を丁寧に生きるが理想。現実は、目の前にやってくるものを処理するだけの日々に忙殺され続けている。この人生に意味はあるのだろうか、なんて無意味な問いを立てるようになったら終わり。それでも意味を求めたくなるのは、きっと人間の性だ。

くたくたの状態で駅へと足を運ばせる。目の前に現れた駅前で抱き合うカップルを横目に聞こえない程度の舌打ちを鳴らす。どれだけ夜が深くなっても、街は静まらない。むしろどんどん人が集まり、楽しそうな声や酒の匂いが増していく。大量のものが集まるこの街が、置いてけぼりになった自身の現在をより破滅へと追い込む。

人生を楽しむものと苦しむもの。両者の違いは一体なんだ。楽しい人生を過ごしたいだけなのに、あまりの障壁の多さに体が追いつかない。時計に目をやると、時刻は22時を回っている。携帯が光る。クライアントからの修正依頼だ。

このまま無視すれば何もなかったことになるけれど、明日必ず上司から叱責を受ける。それだけはなんとか避けたい。人が少ないカフェに入って対応する。真っ暗なPCに映る自分の顔が悍ましくて仕方ない。こんなはずじゃないと思っていた人生を僕は変えられるのだろうか。

カフェには僕と同じように仕事をしている人がたくさんいるから、少しだけ安堵できるような気がした。それぞれが抱える苦しみを共有すれば、ただの傷の舐め合いと化す。それでもいい。それでもいいと思える自分の弱さが情けなくて憎い。蛍の光とともに店員さんの声が鳴り響く。

1人の客が背伸びをしている。くたくたになった体に背伸びはよく効く。すーっと大きな深呼吸をする。タバコの煙に侵食された空間の空気はより苦しさが増す。ここにも安堵できる場所はない。自分は何をやっているのか。それすらもわからない。生活を成り立たせるために仕事をする。仕事が人生の大半を占めると理解しているけれど、このままじゃ仕事に忙殺されるだけの人生になるだけ。この希望のない生活を変えるためには転職しなければならない。

幸いにも友人から勧誘を受けている企業がある。自分の線が勢い余って切れてしまう前に、別の道を選択することは生きるための術だ。自分には合わなかっただけ。今の会社をやめたとしても、人生が終わるわけではない。退職を申し出ると、他所ではやっていけないと言われる可能性はあるけれど、自分が決めた選択は自分で正解にしたい。納得感を持って、前に進めるのであれば、転職をネガティブに捉える必要はない。

いつの間にか退職届を書いている自分がいた。やり残したこともなければ、悔いもない。ずっとカバンの奥に忍ばせていた白い便箋に手紙を添える。なぜか清々しい気持ちになっている。自分の道は自分で切り開いてもいいと思えた瞬間だった。

帰路の途中にある公園に寄って、自販機で温かいココアを購入する。今日は散々だった。誰かの手によって作られた温かさが深く身に沁みる。空き缶をゴミ箱へと放り投げた。狙ったとおりの軌道で、空き缶がゴミ箱へと向かっていく。さて、明日は笑えるだろうか。

よく晴れた夜空に浮かぶ月がやけに綺麗だった。

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