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実に馴れなれしい街、大阪

28年間、ずっと大阪に住み続けている。これから先も大阪に、ずっと住み続けるかどうかはわからない。もしかしたら大阪にいるかもしれないし、いないかもしれない。不確定要素しかない未来を、確定してしまうのはなんだか少し寂しいような気がする。

だから、「かもしれない」という言葉で未来を濁してしまう。言葉を濁してしまうのは、じぶんを守るためか、それともじぶんを奮い立たせるためか、否か。そんなものはわからない。ただ1つ変わらない事実があるとすれば、28年間大阪に住み続けてきたということだけだ。それだけは誰にも奪われない確かな事実で、いまも大阪という土地によって生かされ続けている。

「大阪はいいぞ」と言葉で言っても、実際に体験しなければ、その実情は伝わらない。大阪人はキツいと言われることが多いが、それは紛れもなく事実なんだと思う。でも、それは外から見た景色の話で、28年間大阪に住み続けている僕からすれば、そのキツさが当たり前になっている。

たこ焼き機は1家に1台という嘘。どこかの企業のマーケティングなんだろうか。いまやたこ焼き機を持っている家庭は少ない。お好み焼きとお米を一緒に食べる文化に、何度ドン引きされただろうか。広島と大阪のお好み焼き問題。

どちらもプライドを持っていて、素晴らしいと思うけれど、一消費者からすればどちらも美味いから、どっちが真のお好み焼きかなんてどうでもいい。食べたいときに食べたいほうを食べる。美味いもんを伝統をお互いに持ち続ける。そして、プライドが美味しさを保ち続けるのであれば、一生対立していてほしい。そんな思いさえある。

通天閣は赤信号を灯している。例のウイルスのせいで、シャッター街が増え続けている。早く収束してほしいと願うが、ウイルスも生命維持のため、変化を繰り返しているため、現状は悪化するばかりだ。そういえば万博の命の塔も赤いのだろうか。最近は万博に行けていないため、実情は知らないし、興味すらない。

図々しいおばちゃんたちが商店街で今日も蔓延る。先日も夜の商店街を歩いていると、見知らぬおばちゃんから「兄ちゃん、タバコ持ってない」と声が掛かった。持っていたとしてもあげないし、その図々しさを正直尊敬するし、ときには図々しさを見習いたいと思ってしまう。

昼からワンカップを片手に、公園で将棋をするおじいちゃん連中。たばこの煙が公園内を漂う。喫煙スペース以外は喫煙禁止というルールなんて御構いなしである。

野菜は安くて当たり前。どこもかしこも安さが命。高いお店は、途端に淘汰されるのが運命。タイムセールは1時間に1度行われる。閉店セールが何年も続く宝石店。なにがなんでも売ってやるという精神が凄まじくて、商売人の鏡だなとさえ思ってしまう。

値切り交渉が当たり前のように行われる日常。大阪は最大の値引きの値段を伝える必要がある。でも、東京は最小の値引きの値段を伝えればそれで満足するという話をどこかで小耳に挟んだ。でも、それが真実かどうかは知らない。

商売の街、大阪。商売人の魂がそこら中に転がっている。消費者達は生活を守るために、出来るだけ安く買いたい。でも、生産者たちも生活があるから出来るだけ高く売りたい。そのせめぎあいにはとき惚れ惚れしてしまう。「ああ、生きてるってこういうことか」と、人生の面白さと難しさを商売人と消費者のやりとりを見て、実感する。

「商店街は歩いてください」と自転車を乗った兄ちゃんに声がかかる。AirPodsを両耳につけたその男にはノイズにすらならない。か弱き声はかき消すどころかなかったことにすらされてしまう。なによりも大阪は大きい声が街中に飛び交っている。商店街のBGMも大きい。うざったいなと思いながらも、その大きな音にはもう慣れたじぶんもいる。

電車は割り込み乗車が当たり前。駆け込み乗車で怒られるサラリーマン。満員電車で朝から消耗する。青信号は渡れ、黄色信号は渡れ、赤信号は気をつけて渡れ。ポイ捨ては日本一多い。喫煙スペースがなくなったことに声を荒げるおっさん。

「近頃の若いもんは」というおっさんの声がする。人々はいつの時代もその言葉を、飽きもせず使い続けている。そして、歴史は繰り返され、僕たちの世代もおっさんになった途端に、「近頃の若いもんは」という言葉を、軽率に扱うのだろう。

言葉がキツいと言われることも多い。当人達からすればキツさのかけらもないが、大阪以外の人たちからすれば、キツく感じてしまうんだろう。「あほ」は友好の証だし、「ぼけ」は愛情の裏返しみたいなものだ。

マイナスな要素を挙げればキリがないけれど、大阪という街はとても住みやすい。まずご飯が美味しい。キツい人もいるけれど、基本的にみんな優しい。道を尋ねると、時間があれば、一緒に目的地まで付いて来てくれる。仲間意識が人一倍強く、仲間が傷つけられたときの団結力は凄まじいものがある。

人情の街、大阪。商売の街、大阪。馴れなれしい街にはちゃんと学びがあるし、そんな街で、僕は28年間生まれ育ってきた。大阪はいいぞ。なんて言っても実情は伝わらないだろう。だから、遊びにおいでよ、大阪。観光案内やお気に入りスポットを、馴れ馴れしく連れ回してあげるからね。

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