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バッハのチェンバロ協奏曲はほとんど編曲⁉
J・S・バッハ(1685~1750)はチェンバロを独奏楽器にした協奏曲を始めて作曲した作曲家であり、現在では十数曲が遺されています。しかし、これらの協奏曲のほとんどが既存曲の編曲であったことはご存じでしょうか?ここではそれらの原曲とともにバッハのチェンバロ協奏曲を簡単に紹介していきます。
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1 チェンバロ協奏曲ニ短調 BWV1052
1738年頃に作曲されたもので、もともとはヴァイオリン協奏曲が原曲だと考えられており、その原曲は遺された写本などを頼りにBWV1052Rとして復元されました。
しかしながら、21世紀に入った現在でも原曲に関する研究は続けられており、実はヴァイオリン協奏曲ではなくオルガン協奏曲が元だったのでは?という説を唱えている学者も出てきています。BWV1052の原曲に関する議論はまだまだ終息することはなさそうです。
ちなみにそれぞれの楽章はこの協奏曲ができる前にそれぞれで完成されており、第1楽章と第2楽章はカンタータ『われらを多くの受難を経て(Wir müssen durch viel Trübsal)』BWV146の第1曲目と第2曲目に使用されています。
第3楽章はカンタータ『われはわが依り頼みを(Ich habe meine Zuversicht)』BWV188の第1曲目に使用されていました。
2 チェンバロ協奏曲ホ長調 BWV1053
こちらも1738年頃には作曲されたと考えられています。原曲はヴァイオリンかオーボエが独奏楽器ではなかろうかと考えられています。オーボエ協奏曲としてのものはBWV1053Rとして復元されました。調はヘ長調となっています。
そして、この協奏曲もBWV1052と同じくカンタータの一部として作曲されたものが元になっており、第1楽章と第2楽章は『神のみにわが心を献げん(Gott soll allein mein Herze haben)』BWV169の第1曲目と第5曲目に使われており、第3楽章は『われは行きて汝をこがれ求む(Ich geh' und suche mit Verlangen)』BWV49の第1曲目に使われています。
3 チェンバロ協奏曲ニ長調 BWV1054
曲を聞いた方ならわかった方もいらっしゃると思います。これはヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042が原曲です。
チェンバロ協奏曲への編曲は1737年から1739年の間とされています。ホ長調からニ長調への移調に関しては当時のチェンバロの音域への配慮の結果だという説があります。
4 チェンバロ協奏曲イ長調 BWV1055
この作品にも原曲があるという見解は学者の間でも一致はしているようですが、現在でも原曲の独奏楽器が何であったのかは議論が続いています。オーボエ・ダモーレが独奏楽器ではないかという説が早い時期から出ており、この説に基づいて復元されたものはBWV1055Rとなっています。
5 チェンバロ協奏曲ヘ短調 BWV1056
原曲はヴァイオリン協奏曲ト短調と言われています。この版はBWV1056Rとして復元されました。第2楽章についてはこちらはカンタータ『わが片足すでに墓穴に入りぬ(Ich steh mit einem Fuß im Grabe)』BWV156の第1曲目に使用されています。
またこの第2楽章はテレマンのフルート協奏曲ト長調の第1楽章に似ているとされています。
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バッハは音楽に対してすごく勤勉であったので、様々な音楽家を研究して自身の作曲に役立てていました。時には他の作曲家のフレーズを組み込むこともあったので、別に珍しいことではありません。バッハとテレマンは生前は良き友人同士であり、当時はテレマンの方が世に名が知られておりバッハの名声はそれほど高いものではありませんでしたが、テレマンはバッハの才能を当時から高く評価していた人物でした。バッハの次男であるカール・フィリップ・エマニュエル(Carl Philipp Emanuel Bach)の名付け親になったのはこのテレマンだと言われています。
6 チェンバロ協奏曲ヘ長調 BWV1057
こちらの原曲はご存じブランデンブルク協奏曲第4番ト長調BWV1049です。この協奏曲に関してはほぼ単純な移調にとどまっており、第2楽章に少し手を加えられている程度になっています。チェンバロ協奏曲とはなっていますが、原曲でも使用されたリコーダーがこちらでも使用されているのでコンチェルト・グロッソに近い編成です。
7 チェンバロ協奏曲ト短調 BWV1058
こちらは原曲がヴァイオリン協奏曲イ短調BWV1041です。ほぼ移調させただけにとどまっていますが、バッハはあまりこの曲に出来栄えには満足していなかったようです。その理由は独奏楽器とリピエーノのバランスが良くなかったからだと考えられているようです。
8 2つのチェンバロのための協奏曲ハ短調 BWV1060
原曲はヴァイオリンとオーボエのための協奏曲だと言われています。復元されたものはBWV1060Rとなっています。ただ原曲の調がニ短調だったのではないかという説も出ており、BWV1060Rに関してはハ短調で書かれたものと、ニ短調で書かれたものが混在しています。
9 2つのチェンバロのための協奏曲ハ長調 BWV1061
この作品は完全オリジナルとして作られており、最初は弦楽器による伴奏無しの作品として書かれました。イタリア協奏曲BWV971のような感じですね。伴奏無しの版はBWV1061aとして遺されています。その後弦楽合奏が書き加えられましたが、この部分はバッハ自身によるものではないかもしれないという説も出ています。
10 2つのチェンバロのための協奏曲ハ短調 BWV1062
こちらはご存じ2つのヴァイオリンのための協奏曲BWV1043が原曲です。1736~1737年の間に編曲されたと考えられています。構成的にはほぼ移調したのみにとどまっていますが、第1楽章の最後がピカルディ終止ではなくなっている変更があります。
※ピカルディ終止・・・短調の楽曲において、曲の終結に固有の主和音(トニック)ではなく同主調の主和音を使用すること。
11 3つのチェンバロのための協奏曲ニ短調 BWV1063
この作品に関しては未だにオリジナルが何なのかは判明していません。前述のとおりバッハのチェンバロ協奏曲はほとんどが編曲なのでオリジナルの作品があったとされる説と、それとも編曲ではない完全オリジナルの作品なのかは未だに議論が続いています。
12 3つのチェンバロのための協奏曲ハ長調 BWV1064
この協奏曲の原曲は3つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調であると考えられています。こちらはBWV1064Rとして復元されました。
13 4つのチェンバロのための協奏曲イ短調 BWV1065
こちらの原曲はアントニオ・ヴィヴァルディの作曲した4つのヴァイオリンのための協奏曲ロ短調(調和の霊感第10曲目)RV580です。
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バッハはヴィヴァルディの調和の霊感の中からRV580の他にもRV310、RV522、RV230、RV565、RV265を編曲しています。それらはオルガン独奏、もしくはチェンバロ独奏の形をとっています。
原曲が曖昧になっている作品もありますが、バッハのチェンバロ協奏曲のほとんどが編曲であったのはわかっていただけたと思います。いずれの作品にせよチェンバロの特性を活かした派手な奏法はバッハならではの作曲技術によって高みへ昇り詰めました。どれも素晴らしい作品になっているので、この機会に聞いてみてください。
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