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パヴァーヌ 嬰ヘ短調 楽曲分析

今回はガブリエル・フォーレ(1845~1924)パヴァーヌ嬰ヘ短調の楽曲分析をしていこうと思います。フォーレの作品の中ではよく演奏されるもののひとつで、創作活動中期における代表作です。ノスタルジックな旋律と印象的な和声、そしてわかりやすい楽曲構成が特徴です。では詳しく見ていきましょう。

ガブリエル・ユルバン・フォーレ(Gabriel Urban Fauré)

1 概要

作曲されたのは1887年で、この年にはレクイエムOp48(三大レクイエムのひとつ)も作曲されており、フォーレの創作活動中期における代表作の一つとなっています。元々はピアノ作品として作曲されており、その後オーケストレーションが施され、現在では管弦楽作品として演奏されます。また、合唱も付け加えられていますが、省略されることもあり合唱なしでの演奏も多いです。詩はロベール・ドゥ・モンテスキュー(1855~1921)により書かれました。フォーレのパトロンであったエリザベート・グレフルー伯爵夫人に献呈されました。

また、この作品は後に作曲された劇付随音楽『マスクとベルガマスク』Op112にも転用されました。

題名にあるパヴァーヌとは元々は舞曲の一つです。16世紀のヨーロッパで踊られていた行列舞踊でした。16世紀となると、いわゆるルネサンス期の時代ですね。ゆったりとしたテンポで踊られる舞曲で、より活き活きとした踊りであったガイヤルドと対になる形で踊られていました。時代が進むにつれて17世紀には人気も衰えましたが、器楽曲としてのパヴァーヌはその後も様々な作曲家によって作られていきました。他にパヴァーヌの名曲あげるなら、ラヴェル(1875~1937)亡き王女のためのパヴァーヌがありますね。

構成はコーダ付きの3部形式ともとれ、細かく分けるとA-B-A-C-B-A-コーダとなっているのでロンド形式ともとれそうです。

編成はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン各2本ずつと弦5部、そして混声4部合唱(任意)です。

金管楽器はホルン2本だけと小規模な編成になっています。この曲はフルートに重点が置かれており、フルートが要所要所で活躍します。また低音域を多用するオーケストレーションをとっているので、低音を響かせることが難しいフルートにとっては中々難しい曲だと思います。技術的には難しくはありませんが、いかに楽器を響かせるか、これが重要になります。

では楽譜を見ながら、どんな曲なのか詳しく見ていきましょう。
※今回は合唱部分については説明を省略します。

2 構造


4/4拍子 Andanteアンダンテ moltoモルト moderatoモデラート(歩くような速さで、非常に穏やかに) 嬰ヘ短調

A 0:04~

ホルンは2 Cors Chrom. en Faと書かれていますが、これはフランス語で半音階を演奏できるへ長のホルンという意味なので、いわゆるヴァルブホルンのことを指します。この時代でもパリのコンセルヴァトワールにはナチュラルホルンのコースがあったようなので、このように区別されていたのでしょう。フランスではヴァルブホルンが出てきた後でも、ナチュラルホルンは完全に使われなくなったわけではなかったのです。

弦楽器による1小節のピツィカートの伴奏を経て、フルートが主題を奏でます(黄色のハイライト)。和声は嬰ヘ短調と平行調のイ長調を行き来しながら進んでいきます。
フルートによるメロディが終わると、次はオーボエとクラリネットがメロディを奏でます。オーボエが主旋律で、クラリネットがいわゆるハモリです。Aの7小節目ニ長調の和声進行が現れますが、すぐに主調戻ります。

再び主題がフルートで再現されます。後半は楽器がクラリネットとファゴットに変わり、和声もニ長調寄りになっています。この部分のファゴットは音域が高いので、演奏に手をやく部分でもあります。続くBでもフルートが活躍します。

B 0:58~

このBの部分ではメロディが全てフルートで演奏されます。Bの4小節目の3拍目からはホ長調V7→VI7第2転回形を繰り返しますが、この部分は古典的な和声からは逸脱しています。7の和音の第2転回形は低音4度の予備を必要としますが、ここでは予備はされずに使用されているからです。Bが終わると再びAに戻ります。

A' 1:27~

A’ではまずヴァイオリンによって主題が演奏され、次にフルート、オーボエ、クラリネットにメロディが移ります。ヴァイオリンにはconコン graziaグラツィア(優雅さをもって)の指示があります。ここから、合唱も加わります。メロディ、和声ともに1回目のAと変化はありませんが、メロディの担当楽器を変えることで単調さを避けています。

A'でも主題が繰り返されますが、前半は第1ヴァイオリンとヴィオラ、後半はフルート、クラリネット、ファゴットと担当楽器が変化します。A’が終わると中間部Cへと向かいます。

C 2:16~

Cはこの曲において一番劇的な部分です。ニ長調へと転調しヴァイオリン、ヴィオラ、フルートによるメロディとホルンによる対旋律(オブリガード)が特徴です。

この部分は4回演奏されるのですが、1,2回目はニ長調、3回目はハ長調、4回目は変ロ長調と転調していきます。変ロ長調Cが演奏された後は再びBが登場します。B’の出だしはやはりフルートから始まります。

B' 3:08~

B'ではメロディがフルート→チェロ→クラリネット→ヴァイオリンと変わっていきます。1回目のBではすべてフルートが担当していたメロディは様々な楽器へと割り当てることで単調さを避けると同時に、音色の違いを活かしているのも覗えれます。ヴァイオリンにはespressivoエスプレッスィーヴォ(表情豊かに)の指示があります。

A' 3:39~

再びAが登場します。A''ではまずオーボエとファゴットで主旋律が演奏され、加えてヴィオラとチェロで対旋律が演奏されます。後半はメロディがヴァイオリン、ヴィオラに移り、対旋律がフルート、クラリネットに移ります。次にチェロで主旋律が演奏され、ファゴットで対旋律が演奏されます。低音楽器がメインで活躍する場面です。

フルート、オーボエ、クラリネットにメロディが移り、対旋律はヴィオラへと移ります。A''の16小節目からは和声が複雑化します。V7→+IV7→Iの和音第2転回形→vV9の和音第1転回形→V7の和音第3転回形→・・・というカデンツが成り立たない進行をしています。この時代になると古典的和声からは逸脱した進行もたびたび見られるようになります。そしてコーダへと向かいます。

コーダ 4:41~

コーダはまずBの素材を使ってチェロが旋律を奏でます。その後クラリネットに移ります。続いてAの素材を用いてフルートが旋律を奏でます。tranquillementトランクィルマン(穏やかに)の指示があり、まるで静観しているかのように音が流れていきます。

この部分の和声はI→ vV7第2転回形→I7第2転回形→+IV7という進行を繰り返しており、カデンツが成り立たない進行になっています。

基本的には古典的な和声を取り入れながら、このような逸脱した部分を加えることで曲にアクセントを加えています。このような和声の扱いは一歩間違えれば作品として成り立たない可能性が出てきますが、そこは流石作曲家。違和感なく仕上げています。ちなみにですが、フォーレの後期の作品になると、より古典的な和声からは逸脱する部分が多くなり、半音階的、時には無調的なパッセージも挿入されていきます。しかし、音楽的には調性音楽の範囲でとどまっています。

最後はオーボエ、ファゴットがため息のような長い旋律を奏でて、弦楽器がピツィカートで音階を下っていきます。最後はV7→Iという全終止で終わりますが、ここのV7の和音は第3音(E♯)が転位してF♯になっています。(ポピュラー音楽でいうsus4コードになっている)

3 終わりに

いかがでしたか?同じメロディを何回も繰り返し演奏していますが、オーケストレーションはそのつど変更されているので単調さは無く、一部古典的な和声から逸脱した和声法なども相まって、ノスタルジックな雰囲気をより引き立たせる楽曲に仕上がっています。

ちなみにフォーレのピアノによる演奏も遺されています。(とはいってもピアノロールですが・・・)

ピアノだとオーケストラとは一味違う儚さがありますね。

これを機にフォーレの魅力に気づくきっかけになれば幸いです。

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Ryo Sasaki
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