【#読書感想文】『しあわせの理由』グレッグ・イーガン著(「適切な愛」のみ)
SF作家グレッグ・イーガンの短編集『しあわせの理由』を読みました。
実はすべての作品について感想を書きたかったのですが、バタバタした日々を送っていたために、1作だけ書いて放置していました。
いまさら詳しい感想は書けないので、1作分だけアップします。
熟成下書きの供養です。
適切な愛
主人公カーラは夫クリスが事故で体の機能を失ったために、体が再生するのを待つ間、彼を脳だけにして生かすことにする。
ただ保険の関係で、装置による生命維持ができず、代わりに自分の子宮に夫の脳を保存し、代理母によってクローンが生まれるのを待つことになった。
子宮というものは、本来胎児がそこに入って育つための場所である。だが胎児以外のものが入った場合でも母体としての機能が働くようで、カーラは自分が妊婦になったような錯覚を覚えながらそれを否定し、クローンに移植が可能になるまでの二年間を葛藤と共に生活する。
妊娠を経験したことのある女性なら、その母性を否定しなくてはならない彼女の立場を、冷ややかな視線を浴びせつつ共感せずにはいられないだろう。
そして体を再生したのちに出会う夫を、同時に自分の子供のような存在に感じることがないように、ホルモンの命令を完全に無効化するだけの精神力と洞察力を身につけていた。
自分の中に生まれた母性を否定することが、やがては人間性までを失ってしまうそれは力強い女性というより、本来持っているはずの精神的な豊かさや優しい気持ちをなくしたことに、悲劇を感じた。
これは女性の社会進出とともに、妊娠や出産をあきらめる女性に対する忠告か、と解釈するのは行き過ぎだろうか。
性差を違いと捉えず、差別と捉えることで引き起こされる社会が進む道を、カーラという不規則な妊娠状態を経験した女性を通して伝えているように思えてならない。
他にも商品紹介に出ている「ボーダー・ガード」が印象的でした。
これはストーリーではなく「量子サッカー」という小道具がどうしてもイメージできず、挫けてしまいました。
イーガンの小説はハードSFというジャンルに分類され、科学とティクションをうまく使い分けていると思います。ただある程度科学が解っていないと、その境目がよくわかりません。特に量子力学を扱っているものは、とにかく難しい。
その難しいものをそのまま受け入れられれば、解らないなりに楽しめると思います。
量子の世界を中途半端に学んだせいで、解らないのがなぜか悔しくなり、手元にあるイーガンが積んだままになっています。
いつかその壁を破壊して、SFとして素直に楽しめるようになりたいとものです。
短編集に関しては、1話ごとに感想を書かないとダメですね。
今後読むときはしっかりと書いておかねばと自戒を込めてここに宣言。
でも先日読み終えた『冷たい方程式』はそれを行なっていないので、その次から頑張ります。
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