嬉しそうな表情が何より嬉しい。
#就労支援の現場から Vol.6
2日連続の現場シリーズ。
人が介在している現場というのは、日々新しい発見や何かしらの変化があるから楽しい。もちろんその分、大変さもあるけれど。
*
「タイピング20点いきました!!」
あるご利用者様がそう報告してきてくれた。
脳出血により失語症のその方。また元々利き手だった側が麻痺側となり、利き手交換をしている方だ。
脳出血を発症して1年経たずで就労移行支援を利用開始した。
この方について語りだすと長くなるので、、(笑)
この方が初期から取り組んでいる課題がある。
その1つが「タイピング練習」だ。
よくあるe-タイピングで、画面に出てきた文章を入力するというもの。
失語症かつ、利き手交換をしたその方にとってこのタイピングはなかなかに辛いものだったように見える。
開始当初は5分間で60文字程度のタイピング数。そのサイトの基準でいうところの「10点」。
これは石川県もよく使われる方言。新潟出身の私は、この方がよくつかわれているのを聞いて意味を覚えた。
失語症というのは、病気を発症したことにより後天的になるもので、おそらく本人の中でも「過去のできていた自分」とのギャップに葛藤があったんだと思う。
私たちがかけるその言葉は、時にその方を苦しめることもある。本人が一番「そんなことない、わけない」という風に自覚していたから。
だから私はあまりその言葉を使わなかった。
私ができることは2つ。
1つはとにかく継続していくこと。それを見守っていくこと。
1回や2回でできるようになるものではない。失語症というのは、完ぺきではなくとも訓練をしていくことで少しずつ改善されていく部分もある。
だからとにかく継続していくしかない。
継続が飽きないようにするために、日々の記録を表にしてまとめてもらったりもした。何より数字の変化が一番の実感になる。
もう1つのできること。
それは小さな「できた」を伝えていくこと。
本人というのは常に身近で「自分」を見ているから、変化というものを実感しにくいものだ。そのために数字の変化に注目してもらっている。
だけど継続してやっていくと、どこかで数字の変化が伸び悩む時期がある。きっとこの時期って結構つらい。実際結果にはつながらなくとも、「できて」いる部分があるのも事実。
だから小さな「できた」にスポットを当てて、そこを伝えていく。
などなど。
小さなできたを取り出して、それを伝える。実際にできていることだから嘘じゃない。これはしっかり見ていないとできないことでもある。
かといってただ「できた」を伝えるだけにはしないようにしている。そのあとに加えて、
改善の余地があるところも伝えていく。
そして気づけばいつしかお互いの合言葉が決まっていた。
「まずは20点目指しましょう!」
*
タイピング練習を開始してから気づけば半年近く経った気がする。
そんな今日、冒頭の報告を受けたというわけだ。
見方によっては少々時間がかかったと受け取れるかもしれない。
でもそんなことはいったん置いておいて。
何よりこの半年近く、「継続して取り組み続けた」ということが何よりも誇れるべきことのように思うのは私だけだろうか。
結果が出ないと逃げ出したくなるものだ。目を背けたくなるものだ。
でも逃げなかった。
毎日のようにタイピング練習に取り組み続けた。
そこでようやくたどり着いた「20点」だ。
私は自分の手で誰かを変えることに対してそこまで魅力を感じていない。
そもそも誰かのことを変えようなんて、私にはおこがましいと思っている。
でもせめて「きっかけ」を提供できる人でありたい。
そのきっかけによって、
そのきっかけを自らものにして誇らしげにしている表情・姿を見るのが何よりも好きだ。
きっとそれが本人の自信につながっているんだろうなぁ、と思うと嬉しい。
嬉しそうな表情を見るのが嬉しい。
私は最後にその方に言った。
「次は「30点」ですね!」
その方は笑ってた。