[ショートショート]人との出会い方
「今日は楽しかったよ!ありがとう!」
「僕も今日はとっても楽しくてあっという間だったよ。」
「じゃーまた。」
「うん!」
そう言って彼女はたくさんの人が溢れる駅の方へ歩いていった。今日は彼女との初デートだった。
彼女とは同僚の勧めで始めたマッチングアプリで出会った。初めは疑心暗鬼だったしアプリなんかってバカにしていてたけど、始めてみると結構面白かった。
今まで無意識だったが自分は意外と人気があるみたいだったことに気がついた。今までは男子が多い環境で生活してきたからか、異性の方との接点はほとんどなかった。
加えて自分は海外の友達と過ごすことが多くてあまり日本人に興味がなかった。大学生の時もほとんどの時間を外国人の友達とすごした。そこに恋愛感情なんてなく、ただただ楽だった。
そんなんだから同年代の日本人の友達はほとんどいない。それだからか女性の知り合いなんていないから自分の市場価値なんて一切わからない。
いざアプリを始めてみても全く使い方がわからなかったので、細かい設定は全部同僚にお願いしてしまった。それがいけなかったのかメッセージが殺到してしまった。
もともと海外の人とはたくさん話していたから人と話すのは嫌いじゃないはずだが、日本人の女性に対して同じように会話したら全ての人からメッセージが来なくなった。ある一人を除いて…
思ったことをそのまま言ってしまうのが日本人の女性は嫌いみたい。それを知らなかったので当たり前の結果ではあるでしょう。
それでも一人の女性だけは話し続けてくれた。
自分が思ったこと全てを言ってくれることがよかったみたい。彼女自身が思ったことをすぐに口にしてしまうみたいで、女の子と一緒にいるのが苦痛みたい。
そんな彼女だから僕も外国人の友達と話す感覚でいることができてとても気が楽だった。惚れるのも時間の問題ですよね。
そして人生で始めて日本人の方とデートの約束をした。
初デート当日彼女は1時間遅刻してきた。
海外の方と接する時間が長い僕は全く気にしなかった。ただどこかで事故に巻き込まれたんじゃないかと心配になったが家に忘れ物をしてしまったらしい。きちんと連絡をくれたから安心できた。
どうやら家の鍵を忘れてしまったみたい。よく忘れ物をしてスマホとか忘れちゃうみたいで、自分でも悩んでいるみたい。
その後は普通に楽しかった。リアルにあったのは初めてだったけど、昔からの友人みたいにすぐに心が打ち解けあった。それまでメッセージのやり取りしかしていなかったが、出会ってみたらもっと魅力的な人だった。
そしたら彼女から別れ際に大切な話があると言われた。
それまでの楽しい表情とは一転してとても真剣な表情をしていた。
真っ直ぐこちらをみてくる瞳は言葉以上に何か大切な何かを秘めていた。その瞳に吸い込まれそうになったが目を逸らすことはできなかった。
「私ってADHDなんだよね。」
「それで?」
「嫌いにならないの?騙したとか思わない?」
「別に今どき珍しいものじゃないでしょ。それにそういう人の方が能力高い分野もあるし。今日みたいにずっと楽しい会話できたのは間違いなくあなたのおかげだよ。」
「そうなの?迷惑じゃなかった?」
そう言って彼女は不安げに小首を傾げた。
「僕ってあんまり日本人と話すの慣れてないんだよね。だから今日不安だったんだよね。でも明るくて元気もらえてすごいよかった!」
「ありがとう…」
そう言った彼女の瞳からは涙が溢れ出てきた。
自然と手が伸びて彼女の涙が落ちる前に人差し指で涙を掬い取った。
そのまま彼女を抱きしめた。
どれくらい時間が経ったのかわからないが、その後は手を繋いで駅まで送った。
それからハワイで結婚式を挙げるまで遠い時間は掛からなかった。さらに僕には世界中に友達がいて彼女も大切な人たちがいる。だから日本でもお祝いをしてその後は世界の友人を訪ねながら世界一周をした。
こんなに盛大に祝ってもらって彼女も幸せそうだった。
人並みの幸せを手に入れる事に形なんてどうでもいいと思った。出会うべき人にはどんな形であれ出会うことになるんだろう。
そんなことを考えながら今日も世界中を旅している。
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