【読書録】生成AIで世界はこう変わる
今回は今井翔太さんの「生成AIで世界はこう変わる」を読んだので、その読書感想文でも書いてみたいと思います。
年明けすぐに読んだものの、メモとかまとめとかしているうちにすっかり時間が経ってしまいました。
概要と感想
東京大学松尾研究室の今井翔太さんによる著書ですが、AI関連の有名人なので、Xでフォローしていたことから本書の発売を知りました。
本書では、AI界隈では技術の変化スピードが速いことを踏まえて、ある程度長い間通用するであろう技術の解説に始まり、労働・創作への影響、そしてAIとどう付き合っていけば良いか?という点を、研究者としての視点も交えて紹介してくれています。
AIに関する仕事をしている身として、生成AIには非常に興味を持っていたし、ChatGPT出現時にはかなり早く飛びつきました。仕事で扱うAIは簡易的な機械学習を活用したものでしかない(ひどい場合には機械学習ですらない)場合が多く、現実とはそう言うものであると理解しつつ、それをあたかも「知能」であるかのように説明する事にもやもやしていました。それゆえに、ChatGPTを初めて触ったときは「これだ!」と感動し、そこからは周辺技術を意識的に情報収集するように心がけていました。
とはいえ、この界隈の技術の進化は目まぐるしく、言語のみならず画像や動画、音楽分野での生成AIも急激に新しいものが登場しては進化し、全く追いつけていませんでした。
本書では、あくまで一般書ですし、一つ一つの技術を詳細に解説するようなものではないものの、大まかな内容を掴むのにちょうどいいボリューム感であり、第一歩として適しているように感じました。全体俯瞰ができ、周辺技術の話題にとっつきやすくなりました。
また、最終章の松尾豊先生と著者の対談は、なかなか考えさせられるものでした。松尾先生でも最早予測する事は困難とされる、AIの進歩とこれからの社会の変化に対して、「メタ認知」で「戦略的に」行動していく必要があると強く自覚しました。
AIと労働について
個人的には、生成AIが労働に与える影響に関する話題については、考えさせられるものがありました。
従来、いわゆるブルーカラーの「誰でもできる肉体労働」と表現される種の労働こそが最初にAIに代替されていくものだと考えられていましたが、ChatGPTの出現によりホワイトカラーの「難度が高く、高賃金な頭脳職」の労働こそがより大きく影響を受けうることが明確となってきているとのこと。OpenAIによる論文でもそう記述されているようです。
まさにホワイトカラーの、その中でもChatGPTが得意とするコーディングに関わる仕事をしている自分としては、恐怖心と危機感を覚えざるを得ませんでした。
生成AIは完成品をいきなり出力できるという性質上、人間の作業を完全に代替する(労働置換型)可能性が、どちらかというとネガティブな話として論じられることが多いですが、補助ツールとして使うことで人間の作業効率を向上させる(労働補完型)の側面も当然あります。従って、昨今非常によく耳にする「AIに仕事を奪われる」というフレーズがありますが、必ずしもそうではなさそうです。
最終的には人がAIの出力を採用するかを判断するという構造は残るはずなので、望ましい成果を得るため、AIに適切な指示を出し、使いこなす力が求められるようになってくると考えられます。AIを使いこなすには、まず何ができるのかを正しく把握した上で、うまく操ってやる必要がありますから、簡単そうに見えて難しいスキルだと思っています。
では、AIを使って何をするか?に対する答えもまた重要になるのでしょう。ちょっとした機械学習モデルを作るとか、簡単なデータ分析をするとか、それはAIが勝手にやってくれるような話になるため、スキルとしては成立しなくなると考えられます。つまり、その上で何をするのか?という、一つ上位の思考が求められます。
この問い自体は、AI云々に関わらず、考えておかないといけないことだとは思いつつ、なんとなく逃げていました。まずはスキルを身につけないと、と言い訳をして。しかし、今や「まずスキルを身につける」は悪手でしかなくなっていて、生き残るためには自分がすべきこと、やりたいことをしっかり考えておこうと改めて思いました。
まとめ
生成AIによって世界がどう変わるか?というテーマではありますが、技術的な点よりむしろ、AIによって人間が人間たり得る性質というか、アイデンティティのようなところが問われているような気がしました。
そういうつもりで読んだわけではありませんでしたが、改めて自分を見つめ直そうと思えるいい機会になったと思います。
サクッと読めますが、得るものが多かったと感じました。オススメです。