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ずっと本を並べていたい。〜本屋さんを開くなら〜
本から本へと、渡り歩いていく。
読書を長いあいだ続けるうちに、そんな経験を重ねてきました。
たとえば、堀江敏幸さんの「回送電車」の中におさめられている追悼文を読んだことがきっかけで、須賀敦子さんの作品を読むようになったこと。
恩田陸さんの「三月は深き紅の淵を」の第一話では、登場人物達が思い思いに読書を楽しむのですが、その中に出てくる"森茉莉"という作家の名前の美しさに心を惹かれて、「私の美の世界」を手に取った後、彼女の父である鷗外や、妹の小堀杏奴の作品にもふれたこと。
星と星をつないで星座を描くように、本と本の間に橋を架けることが好きです。
そこで、もしもわたしが本屋さんを開くなら、と考えてみました。本と本の世界が響きあい、偶然の出会いを楽しめるような本棚をつくりたいな。
場所は、路地の奥。
一見したところふつうの民家ですが、軒先には、
"本、有り〼"、と書かれた札が下がっています。
引き戸を開けてすぐのところには、木製の小さなスツール。その上に「ちょっと本屋に行ってくる。」(藤田雅史)を、"いらしてくださり、ありがとうございます"の意を込めて、立てて置きましょう。
入り口近くには大きめの平台があり、ここは、"本についてのエッセイ(書評集)"と、その本の中でとりあげられている作品が並ぶコーナーです。
「読んでばっか」(江國香織)を読んで、このエッセイの中に出てくる本が全て並べられた光景を見てみたい、と思ったのですよね。江國香織さんが読んだ本がずらりと並ぶ光景。一冊の本を起点にして、たくさんの本と出会えるのは楽しいもの。
その他にも、「吉野朔実は本が大好き」(吉野朔実)、「大好きな本」(川上弘美)、それから「詩歌の待ち伏せ」(北村薫)、なども良いかな。季節ごとに起点となるエッセイを変えれば、平台の景色もその度にがらりと変わるのです。
秋には"食欲の秋フェア"と銘打って、「ハラヘリ読書」(宮田ナノ)、「私的読食録」(角田光代・堀江敏幸)、「つまみ食い文学食堂」(柴田元幸)、「味見したい本」(木村衣有子)、などを並べてみるのも一興かもしれません。
平台から離れて、壁沿いの本棚に目を移します。
どうやら、本の並びは作者名の五十音順ではない様子。
「片腕」(川端康成)、「薬指の標本」(小川洋子)、「かかとを失くして」(多和田葉子)、「春琴抄」(谷崎潤一郎)、「眉かくしの霊」(泉鏡花)…。
体、です。自分の一部を、貸したり失くしたり隠したりする物語たち。なんだか不穏な雰囲気が漂う一角を前に、腕をさすりつつ視線を滑らせれば、「屍鬼」(小野不由美)、「ポーの一族」(萩尾望都)、「ダレン・シャン」(ダレン・シャン)と、目が合います。
変容した体とともに時を超えることの悲哀に思いを馳せながら歩を進めると、硝子戸付きの棚に行き当たる。
戸を開けると、いろとりどりの光の粒がこぼれ落ちてきました。
「ラピスラズリ」(山尾悠子)、「すべての、白いものたちの」(ハン・ガン)、「黒の過程」(マルグリット・ユルスナール)、「綠色研究」「黄金律」(塚本邦雄)、「黄色い本」(高野文子)、「一色一生」(志村ふくみ)。
「赤白つるばみ」(楠本まき)には、声に色が視える人物が登場するのですが、文章にも色がある、とわたしは思うのです。
読み終えたあとも、豊かな色彩が揺曳する作品たち。
並べることで、色彩は重なり合い、新たな色がうまれるのではないでしょうか。
さて、集中して本の題名を目で追っていると、空腹を覚えることがありますよね。
そんなときの為に、奥に喫茶室を設けていますので、そちらでゆるりと一服を。
コーヒーの香りを楽しむのであれば、お供には「珈琲が呼ぶ」(片岡義男)、「月とコーヒー」(吉田篤弘)がありますし、紅茶ならば「紅茶と薔薇の日々」(森茉莉)、「冷めない紅茶」(小川洋子)もひかえております。
洋菓子と和菓子、どちらがお好みですか?
「西洋菓子店プティ・フール」(千早茜)、「ショートケーキを許す」(森岡督行)、はケーキとご一緒に。
和菓子でなごみたい。そんな気分でしたら、「和菓子のアン」(坂木司)、「あんこの本」(姜尚美)も、ご用意いたしましょう。
机の片隅には、レターセットと万年筆を置いておきます。その隣には、「ツバキ文具店」(小川糸)、「文房具56話」(串田孫一)、「あとは切手を、一枚貼るだけ」(小川洋子・堀江敏幸)が、ひっそりと佇んでいます。
本を読んで想ったことを、書き綴る時間も良いものです。
購入された本には、空と雲を思わせる模様のブックカバーをかけます。こちらも、季節によって色合いを変えるようにしたいな。
"今夜も、よく眠れますように"
そんな願いをこめて、本にそっと文香を挟み込み、お客様をお見送りするのでした。
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"本屋さん開店します"、ということばに心を惹かれて、メディアパルさんの企画に参加いたしました。
かつて読んだ本や、いま手元にある作品のことを思いながら頭の中で本を並べていくのはとても楽しくて、時が経つのを忘れてしまうほどでした。
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![夏樹](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170142525/profile_d081813f2c41376a30dd3cc4eb06a66b.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)