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コミュニケーションとチームのエンゲージメント向上

「私のマネジメント教科書」
その5:
コミュニケーションとチームのエンゲージメント向上


「なぜか雰囲気が停滞している気がする」


「管理職になるまでに知っておくべきこと」という集合学習セッションに参加いただいている、大手IT企業で部長職を務めるBさんが講義後のアフターセッションで、いつものイキイキとした表情と打って変わって深いため息とともにこう話し始めました。

「最近、チームのメンバーが少し元気がないように感じるんです。もっと積極的に意見を出してほしいと思っているのですが…」

Bさんの目には、組織の責任者としての責任や理想と不安が混ざり合っているように見えました。通常ならいつもの彼と同様に活気に満ちているはずの彼のチームが、チームの発足時と違って最近どこか活気がなくなっているようです。会議での発言は減り、現場発想の新しいアイデアの提案も滞っている。この状況が続けば、チームの生産性低下は避けられないと危惧されているとのことです。

「どうすれば、もっと活発なコミュニケーションを促せるでしょうか?」

Bさんの問いかけに、私は少し考え、うなずきながらこう返しました。
「それでは、コミュニケーションとエンゲージメントの関係について、一緒に考えてみませんか?」


第1章:エンゲージメントとコミュニケーション - その不可分の関係


エンゲージメントとコミュニケーション - その不可分の関係

1.エンゲージメントの重要性

「チームのエンゲージメント」という言葉、聞いたことがありますか?簡単に言えば、チームメンバーがどれだけ熱心に、そして深く仕事に取り組んでいるかを表す指標です。
でも、なぜこれが重要なのでしょうか?

ここで、いくつかの興味深い研究結果をご紹介します。

エンゲージメントと生産性の関係

1.生産性の向上: Gallup社の調査によると、エンゲージメントの高いチームは、平均して21%も生産性が高いという結果が出ています。※文末参考文献[1]。
この調査は、Gallup社が行った「State of the Global Workplace Report」という142カ国の従業員に対して行った大規模な調査です。 従業員のエンゲージメントを高めることが、組織の生産性向上に直接的に繋がること世界中の多様な労働環境でこの関係性が確認されています。

2. イノベーションの促進: エンゲージメントの高い従業員は、新しいアイデアを生み出す可能性が高くなるそうです。※文末参考文献[2]
オフィス家具メーカーのSteelcase社が2016年に発表した グローバルな視点から、従業員のエンゲージメント、職場満足度、職場環境の関係性を理解しようとした大規模な調査(サンプルサイズ: 12,480人)である"Engagement and the Global Workplace Report"(残念がら日本は調査対象外)での主な発見としては、下記の3つです。

  1. エンゲージメントとイノベーションの関係:
    エンゲージメントの高い従業員は、新しいアイデアを生み出す可能性が高いことが判明しました。

  2. 職場環境とエンゲージメントの関係:
    自分の職場環境に満足している従業員は、そうでない従業員と比較して、エンゲージメントが高い傾向にありました。

  3. 柔軟な働き方: 柔軟な働き方ができる環境にある従業員は、そうでない従業員よりもエンゲージメントが高い傾向にありました。

これらから、職場環境がエンゲージメントに大きな影響を与えることを示しています。新規事業開発や新しい挑戦を推奨する組織においては、従業員のエンゲージメントを高めることの重要性が大きいという点が注目されます。

Steelcase社は、オフィス環境の設計と家具の製造を専門とする企業です。彼らは、職場の物理的な環境が従業員の行動、文化の強化、ビジネス結果に影響を与えると考えており、その研究に基づいてオフィスのデザインや家具を提供しています。また、Steelcase社は、従業員のエンゲージメントを向上させるためにオフィス環境を活用することを提案しており、そのためのソリューションを企業に提供しています。日本のコクヨさんも同じ提案型の会社ですよね。

3. 離職率の低下: Quantum Workplaceの報告では、エンゲージメントの高い従業員は、会社に留まる可能性が高いことが分かっています。※文末参考文献[3]

従業員エンゲージメントと業績管理ソフトウェアを提供する企業のQuantum Workplace社の2020年の "Employee Engagement Trends Report"では、米国の様々な業種の企業で働く100万人以上の従業員を対象として、顧客企業から収集したデータを分析し、従業員エンゲージメントの傾向を確認しています。主な発見としては、下記の3つです。

  1. エンゲージメントの低い従業員は、エンゲージメントの高い従業員と比較して、調査後90日以内に会社を去る可能性が3.3倍くなった。

  2. 調査後180日経過時点では、エンゲージメントの低い従業員は組織を去る可能性が2.6倍高くなった。

  3. そして調査から1年後、エンゲージメントの低い従業員はエンゲージメントの高い従業員と比較して、組織を去る可能性が2.1倍高くなった。

この調査の結果をみると、従業員エンゲージメントが組織の人材定着に大きな影響を与えることを明確に示していることがわかります。また、組織規模によってエンゲージメントの度合いが異なる(組織規模が小さい方がエンゲージメントが高い傾向がある)ことも明らかになりました。
これは、マネジメントとしてエンゲージメント戦略を策定する際に、組織の規模特性も考慮する必要があることを示唆しています。過去からの人事部主導の大規模なOne fits all戦略が効きにくい環境になってきています。ますますミドルマネジメントのマネジメントが多様性を要求される環境です。この調査の注意点は米国の調査で日本では異なる傾向がみられるかもしれませんが、非常に参考になるデータです。

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