「舟を編む 〜私、辞書つくります〜(第10話)」"言葉"の力を私たちは信じて生きていくという命題
2020年に「大渡海」が校了し、出版されるという事を前提に今回の「新版 舟を編む」は話を作ろうと考えられたのではないか?つまり、パンデミックが起こった中で、私たちは「言葉」というものをどう捉え直したかというような命題の中で書かれた脚本のように思われた。
確かに、私たちはあの最中に、さまざまに心を揺さぶられ、言葉にできない言葉みたいなものがあることに気付かされたし、実際に対面で会えない状況がある中で、言葉をネットに紡いでいった人も多いだろう。そして、紡いでいった言葉が、簡単に批判され炎上した方も少なくないはず。ドラマの中で「会えなくても言葉はありますよね」というセリフがあったが、その通りで、会えないからといっても、言葉が交わせる状況はあったわけで、そこで何を語るかが大事だと知った人も多かったのではないか?そう、「言葉」はどんな時にも人と人を繋ぐ架け橋だ。そして、柴田恭兵の言葉の中に「言葉は、死んだ人とも、これから生まれてくる人たちともつながっている」ということも言われるが、確かに毎日、ネットの中に紡がれる言葉は、未来の人にこの時代を知らしめる信号のようなものだろう。だからこそ、災害の起こった時、そして今回のようなパンデミックが起こった時に、それを言葉で伝えることはすごく大事なことだ。
昨今は、いや昔からかもしれないが、人は自己保身のために平気で嘘をつく。そしてその嘘も言葉で残る。だが、嘘の言葉には、やはり後世の人がそれを読んでも力はないだろう。言葉とは、そのくらい真摯に人に対して訴えてくるものだと私は思う。このドラマをみて、とにかくしっかり有機的な生き方をするには、「言葉」というものを大事にしなければいけないと学ばされた気がした。しかし、ドラマを見て、この手に「大渡海」をこの手に取りたくなりましたよね、中身が白紙でもいいから・・。
最終回は、校了作業直近の編集部にもパンデミックの現実が襲ってくるところから。そんな時に、責任者の柴田恭兵はがん治療のために病院にいて会うこともできなくなる。そういう意味で、前回、彼がタブレットを買ったのは正解だったのだろうし、やはり、今の時代、デジタル機器が使えるようになることは、いろんなところで役に立つことになる。アナログな辞書の話の中でデジタルの有効性も語るこのドラマは奥が深い。その、柴田はステージ2だという話の中で、ドラマの中で死ぬことはないと思いホッとしたりもした。
で、突然、野田洋次郎が、パンデミックの中で世の中に出回ってるその関連の言葉を追加しなければいけないのでは?と言い出す。辞書の制限ページを全て埋めた中での話。皆は、ためらう。だが、そこに柴田からのメール。野田の意見が通ることに。ここで、柴田の思いを配達にくる、妻役の鷲尾真知子さん、まさか、柴田の妻役をやることになるとは思ってなかったでしょうね。でも、ここで見ると、結構お似合い。男と女って本当によくわかりませんな。
発売日を伸ばさないように、スケジューリング再構成の最後の戦いの日々。こういうシーンが「大変だ」ということよりも「やらなければならない」という視線で作られ続けたのもこのドラマの素敵なところだ。こういう心の中では、「働き方改革」糞食らえである。(こういう汚い言葉を使ってはいけませんな・・。)
そんな中、野田の妻の美村里江の店にもパンデミックの影響が出て、ランチを初めてみたり、テイクアウトをやってみたりという流れを貼り紙で表現しながら、休業に至るという流れ。もちろん、野田は言葉の国にいたままで帰ってこない。一人悩む美村の前に池田エライザがいたことは大きかったというのはよくわかった。まあ、誰が悪いのでもない、個々人が考える中で最良の道を選ぶしかない中、美村は師匠のサポートで京都に行くという。確かに休んでると腕が鈍るというのもわかるし、ここでの美村の役所は、やはり料理の国にいたい人なのだ。そんな美村が京都に行く日に言葉さえかけられない野田。考えれば、野田は携帯も持ってないキャラだから、テレビ電話もできないし、一人になる感覚が強い。彼にとって美村はいることが大事なわけで、そういう話をうまくドラマにしてる点もこのドラマの素敵なところなのだと思う。そして、池田が野田の背中を押し、美村に言葉を賭けに走らせる。ここが、あるから、辞書のできた後の東京駅の前の再会のシーンがとても美しい。そう、本当に愛し合うということはこういうことだと言わんがばかりのラブストーリーに展開する流れは、ただの辞書作りドラマではないということなのでしょうね。
そして、前回、告白が実った、池田と矢本悠馬のカップルも、とても、心地よく付き合っていてそうな雰囲気で、下手な抱擁やキスみたいなシーンを入れるよりも、からかいたくなる雰囲気が出せていて、ラブストーリーの作り方のあり方をちょっと変えていきそうな展開に見えた。矢本が、辞書に新たな言葉を増やすことを聞き、何も言わずに去り、そして印刷が間に合うように手配していましたが、これはできる男に見えますよね。そう、こういうことが自然できることで、男女の信頼感や、仕事に対する同志的なものも感じさせる。これが仕事だと言わんばかりに・・・。
そんな流れがあって、辞書の予約も順調で、パーティーの前に社長の堤真一も礼を言いにくる。まあ、こんな流れはドラマだからだろうが、パンデミックを乗り越えてここに行き着いたことが仕事に対する感動を倍化させたと見せる脚本は素晴らしい。
で、出版記念パーティー。今となっては懐かしい、ソーシャルディスタンスをとっての会。そして、柴田恭兵がリモートで、編集者各々に言葉をかける。もはや、この時点で視聴者も編集部の一員みたいになってるから、関係者みたいに涙腺崩壊するわけで、こういうドラマの流れができたことで、このドラマは大成功なのですよね。
で、ラストは、柴田が退院して、岩松了と、次は何を作るかを話していたりする。そう、ものつくりに終わりがないということを語ってるわけで、本当に、このドラマ、多くの若い人に見てもらえたらいいなと思ったりしました。
とにかくも、「舟を編む2024 」見事な出来栄えであり、言葉が日々変わっているということ、そして、私たちはその言葉というものなしでは暮らせないこともよくわかったし、それをよく知ることにより、ここでの主人公、池田エライザのように、いろんな意味で成長できるのではないかということも感じさせてもらえた。
本当に良きドラマでした。スタッフ、キャストの皆様に感謝です!
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